烏城紬保存会

烏城紬保存会

岡山県の郷土伝統的工芸品(註1)「烏城紬(うじょうつむぎ)」は、児島半島の灘崎村迫川・宗津地区に興った袴地織を起源とする絹織物です。「烏城紬保存会」では、伝統を後世に伝えるため、その普及に努めながら技術保存と後継者育成を目的に活動を行うほか、作品展の開催やイベントへの参加など、物産振興につながる取組も積極的に行っています。
註1/「その製造過程の主要部分が手工業的であること」、「伝統的な技術又は技法により製造されるものであること」、「伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること」の3つの要件を満たし、県(岡山県知事)の指定を受けた工芸品。
※「伝統的」とは原則として100年以上の歴史を有し、今日まで継続していることを意味します。

歴史を紡ぐ織物「烏城紬」

烏城紬の歴史は古く、はじまりは今から約200年前の江戸時代、寛政10年(1798年)頃に遡ります。安政年間(1854年~1860年)には庶民の着物用として作られるようになり、備前池田藩が藩のご物産として保護奨励。大阪方面にも売り出され、藩財政に大きく貢献しました。明治・大正期には綿と生糸の交織となり、昭和に入ってからはほとんど綿が使われなくなって、現在使われているのは生糸のみ。江戸時代から続く長い歴史の中、織元二代目が考案した撚(よ)りをかけない緯糸(よこいと)の紡ぎ方や、分業が多い織物の世界で全工程を一貫して1人が行う製作手法への転換など、改良・進化しながら受け継がれてきた岡山県が誇る工芸品です。

烏城紬織元四代目・須本雅子(すもとまさこ)さん

「烏城紬保存会」の代表を務める須本雅子さんは、烏城紬織元の四代目。織元の家に三人姉妹の長女として生まれ、幼い頃から将来は後継者だと言われて育ったそうです。しかし結婚を機に岡山を離れ神戸へ。しばらくは烏城紬から遠ざかった生活をしていましたが、出産で里帰りした際に両親が細々と家業を続けている姿を目にしたことで、次第に烏城紬を継ぎたいと考えるように。「主人には最初大反対されまたが、3年かけて説得しました」と須本さん。その後家族で岡山に戻り、本格的に父の元で烏城紬を始めたのは昭和48年(1973年)。以来、長きにわたってその技術継承に取り組んできました。これまで手掛けた作品は「岡山県美術展」入賞、「全国伝統的工芸品公募展」内閣総理大臣賞受賞など、高く評価されています。

公民館の講座が保存会誕生のきっかけに

「両親の代まで分業されていた糸紡ぎ、精練、染め、織りなどの工程を1人で行うようになったのは、私が継いでからなんです」と須本さん。多岐にわたる織物の工程をすべて1人で担うのは大変なはず。けれど「全部を自分でやることで流れが分かる。不都合があった時にもすぐに対処ができます」という言葉からは、品質に責任を持ちたいという真摯な気持ちが伝わってきます。そんな思いを抱きながら地道に烏城紬を作り続けていた須本さんに、声をかけてくれたのが岡山市岡西公民館の館長さんだったそう。「一人でやっていたら、いつか烏城紬が途絶えてしまう。後継者を育ててはどうか」。その提案をきっかけに、平成7年(1995年)から岡西公民館主催で烏城紬の技術保存と後継者育成のための講座がスタートしました。講座は1クールが3年という長期。それでも受講希望者が定員を超え、抽選になることもあるそうです。現在10期目を数える講座の卒業生は延べ約100人。この講座の卒業生たちが、さらに技術を磨きたいと設立したのが「烏城紬保存会」です。

人の手による唯一無二のものづくり

今回訪ねた岡山市北区奉還町の烏城紬伝承館は「烏城紬保存会」の拠点。会のメンバーが各々作品作りに励んでいます。この日は烏城紬の主要製造工程のひとつ、「精練(せいれん)」を見せていただきました。精練とは洗濯ソーダとマルセル石鹸で生糸を煮て、不純物などを取り除く作業。水分を含んで重くなった生糸を何度も手繰りながら、状態を見極めるのは熟練の技術と培われた感覚が必要で、しかもかなりの重労働です。「長年やっているから、腕が太くなりましたよ」と笑う須本さん。精練に限らず、糸紡ぎ、染色、織りなど、どの工程にも丁寧に人の手が加わり、唯一無二の烏城紬が出来上がるのです。

保存継承と新たなことへの挑戦

「烏城紬保存会」のメンバーは技術の継承だけでなく、新しい取り組みにも積極的です。須本さん自身も「昔は紬に赤色を使うなんてことはありませんでしたが、今は華やかな色も取り入れています。図案なしでその時その時のひらめきを大切に織っています」と、実験的に遊んでみることもあるそう。また保存会のメンバーからの案で、烏城紬の生地を使ったミニ財布やティッシュケース、巾着といった新商品も生まれています。「私1人では考えつかないようなアイデアが出てくるのが面白いです」と須本さん。普段使いができる小物を作ることで、着物愛好家以外にも烏城紬に興味を持ってもらえているのだとか。伝統を守りながらも新しいことへの挑戦を楽しむ姿勢が、その普及に繋がっています。
平成10年(1998年)に発足した「烏城紬保存会」(当時の名称は「烏城紬守る会」)も今では会員数50人以上。一人ひとりが伝承者として、技術の向上、継承に貢献し、その魅力を広めています。