ベティスミス/大島康弘さん

大島康弘(おおしまやすひろ)さん

国産ジーンズ発祥の地、岡山県倉敷市児島に本社を構える、日本初のレディースジーンズメーカー「株式会社ベティスミス」の代表取締役社長・大島康弘さん。父、邦雄氏はベティスミスの前身である「大島被服」の創業者で、大島さんは幼い頃から繊維業を身近に育ちました。平成元年(1989年)、ベティスミスに入社。デニムの残り布を利用した商品<EcoBetty(エコベティ)>の開発や観光施設「ジーンズミュージアム」の立ち上げに携わるほか、業界初のジーンズのフルオーダー、ジーンズ作り体験など、ニーズや時代にあわせた事業の展開で、長年にわたり地場産業や観光PRに大きく貢献しています。

黎明期から改革の時代へ

父・邦雄氏の頃はジーンズはまだ若い産業で、繊維産業の浮き沈みの激しさを肌で感じていたという大島さん。しかし、親の仕事を継ぐのは当たり前だと思っていたそう。大学卒業後は「問屋に行けば小売業やメーカーのことがわかる」と経営コンサルタント会社勤務の先輩に勧められ、総合問屋「宮入」に就職。そこで外側から繊維業界のことを学んだといいます。ベティスミスに入社したのは平成元年。本格的にジーンズ産業に携わるようになりました。「うちは工場を所有しているので、縫製や裁断などの行程もすべて自前でできる。素材の調達ルートも確保しているので、希望を反映した商品をスピーディーに提案することが可能でした」。大島さんはそれまで作り手主体で製造販売していたものを小売店(消費者)の意向を聞き、それを取り入れた商品を提案するなど新しいスタイルを生み出しました。それこそが、今では当たり前に耳にする“営業企画”です。「この言葉、私が言い出したのが最初じゃないかな」と回想します。

SDGsの走りともいえるエコへの取組み

2002年、新しい動きがありました。岡山県の地場産業としてベティスミスの縫製工場が教科書に掲載されたことをきっかけに、小学生の工場見学を受け入れることに。「その時、工場に訪れた生徒さんから見学の記念になるようなものがあればとリクエストされて、ジーンズの端切れを使ったペンケースを作成したんです。これが大好評でした」。そのペンケースを工場に置いていたところ、観光で訪れた一般の人から「これは売り物ではないんですか」と聞かれることが増え、2003年にデニム雑貨のサスティナブルブランド<EcoBetty>が誕生。商品ラインナップは現在20~30種類を数え、駅や高速道路のサービスエリア、空港などでも販売されています。「残布を有効利用することでゴミが減り、買う人にも喜ばれる。今思えばSDGsの走りだったように思います」と大島さん。ここにもターニングポイントを見逃さない、大島さんの先見の明や判断力が活きています。

ジーンズのテーマパーク

もうひとつの大きな転機となったのが産業観光への取り組みです。「児島は“国産ジーンズ発祥の地”と称されていましたが、それを表すシンボリックなものがありませんでした」。そんな中、2003年に開館させたのがジーンズミュージアム(現1号館)です。国内初のジーンズの博物館は、リーバイス社から提供された復刻モデルや、70~80年代に使用されていたミシンなど貴重な資料を展示して、アメリカから始まったジーンズの歴史や時代背景などが分かる作りに。同じく2003年、ミュージアムに訪れた観光客がお土産を購入できる場所をとアウトレットショップもオープン。2006年には倉敷市が産業観光を振興するようになり、ジーンズバスの運行が開始。市の要望で土日もミュージアムを開館するようになりました。最初は少なかった入館者数も徐々に増え、2010年にはジーンズ作り体験の体験工場を、2014年には国産ジーンズの歴史を伝えるジーンズミュージアム2号館をオープンさせるなど次々と拡大。ベティスミスはジーンズのテーマパークとなりました。2016年にはミュージアム1号館が日本博物館協会、岡山県博物館連盟に加盟。年間約5万人の入館者数を誇っています。

斬新な体験メニューで注目

今や岡山・児島観光の目的のひとつにもなっているジーンズ作り体験。「時間やお金がかかるオーダージーンズより、もう少し気軽にジーンズ作りができるサービスがあればと思って、2010年から始めました」と大島さん。自分に合うサイズのジーンズに、好きなボタンやリベットなどを選んで自ら取り付け、1時間程で完成。当日持ち帰ることもできるジーンズ作りの体験は他にないアイデアで話題に。「実はトッピングなどを自由に選べるセルフうどんをヒントにしたんです」と大島さんは笑います。意外なところから着想を得た体験事業はその斬新さもあって口コミで注目を集め、さらなる観光客の増加に繋がりました。2021年2月には「ジーンズ作り体験」に関する特許も取得。倉敷・児島の観光客誘致の一翼を担っています。

産業観光に対する想いとこれから

「今の時代は自分が共感するものを買いたい、生産者と対面し納得して購入したいと考える人が多い。うちは縫製工場の見学もできるし作り手と話すこともできるので、そういう対応も可能です」。企業において産業観光が直接販売の販路になっている昨今、ベティスミスでは “手元にあるもの”を使ってそれに取り組んでいるそう。自社の強みを活かし、従来の仕事に観光の要素をプラスすることで、無理なく無駄なく観光との相乗効果を生み出しているのです。また、今後についても希望を持って語ってくれました。職人の高齢化が課題となっているのは繊維業界も然り。しかし、そういった状況下でも若い人の入社が増えているというベティスミス。「将来独立したいという人が縫製技術の習得や修行のために入社するケースが多いですね。児島に移住を希望する人も増え、町の活性化にもつながっていると思います」。大島さんは、そんな若い人たちがチャレンジできるような場、夢を叶えられる場を提供したいといいます。
「これからも試作や新しい試みなどを楽しみながら継続していきたい」。地場産業と観光、人、まちの未来を繋ぐ大島さんの挑戦はまだまだ続きそうです。
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