株式会社南條海苔/南條雄二さん

  • 下津井港

    下津井港

岡山県南部に位置し、瀬戸内海に面する歴史ある港町・倉敷市下津井で、高品質な岡山産・海苔(のり)を生産している株式会社南條海苔の二代目・南條雄二さん。創業者である父・岩松氏から受け継いだ海苔づくりへの情熱と、長年の経験で培われた高い生産技術を生かし、岡山県漁連が主催する「のり共進会」において、最高位である「農林水産大臣賞」を3回受賞。平成27年(2015年)に自社ブランド「鷲羽(わしゅう)のり」(商標登録)を立ち上げました。開封した瞬間の磯の香り、歯切れの良いパリッとした食感、海苔本来の旨味が凝縮された深い味わいが思わず癖になると人気を集め、「海苔は南條海苔一本」という声もあがるほど。さらに、広報担当で雄二さんの娘・洋子さん発案の「キャラクターのり」が話題を呼び、マスコミからも注目を集めるほか、他業種とのコラボが動き始めるなど、新たな展開にも取り組んでいます。

岡山産・海苔(のり)の歴史

明治時代に生産がスタートし、約100年の歴史を誇る岡山産の海苔。県内外からも高い評価を得ているその味の秘密は、瀬戸内海に流れ込む岡山の三大河川(高梁川・旭川・吉井川)が運ぶ豊富な栄養分。この栄養をたっぷり吸収することで、味・色・ツヤと三拍子そろった高品質な海苔が育ちます。深さのある海域で海苔の養殖を行う岡山県では、海面を浮きと錨をつけたロープで囲い、その中に網を張る「浮き流し式」を採用しています。県内の主な漁場は、東は瀬戸内市から岡山市の吉井川・旭川河口域、西は倉敷市の高梁川河口域や笠岡市沖など。なかでも江戸時代に北前船の寄港地として賑わい、古くから「風待ち潮待ちの港」として知られる下津井は、潮の流れが速く、そのことで海苔が鍛えられ、しっかりと厚みのある海苔が育つといわれています。

手探りでの海苔生産業スタート

倉敷市下津井で6人兄弟の末っ子として生まれた雄二さん。高校卒業後に約1年間水島の工場で働きましたが、肌にあわず退職。そんな20歳の頃、父・岩松さんのもとに海苔の生産業の話が舞い込みます。家族で話し合いを重ね、親兄弟で少しずつ資金を出し合って、創業することに決まりました。「当時は、県の指導の下、下津井で海苔の生産業を始める人が多かったんです」と雄二さん。誰もが手探りの状態でのスタート。苦労も多かったそうですが、それ以上にやりがいを感じていたと言います。「毎日地元の生産者同士で知恵を出し合い、あれはどうだった?こうだったと話をしながら、作業を進めていくんです。最初はうまくいきませんでしたが、3~4年たった頃、ようやく手ごたえを感じてきました。当時は船を動かす軽油や、加工工場にかかる電気代もそれほど高くなかったし、海苔も高値で売れたため、生産者も徐々に増えていきましたね」と当時を回想します。現在、下津井の海苔生産業者はわずか6~7軒ですが、当時は何十軒もの海苔生産業者で賑わっていたそうです。

岡山産・海苔の工程

  • 育苗(網を干す・洗浄する)の様子

    育苗(網を干す・洗浄する)の様子

  • 海苔を刈り取る

    海苔を刈り取る

  • 乾燥器の中の海苔

    乾燥器の中の海苔

  • 乾のりの完成

    乾のりの完成

食卓で何気なく口にする海苔ですが、実は完成までにいくつもの行程を経て出来上がる大変手間のかかる産品です。まず、海苔を育てる網に海苔の胞子を植え付ける「採苗(さいびょう)」を行い、続いてそれらの網を船で海へ運び、5〜10枚重ねて海面に張って“のり芽”を育てる「育苗(いくびょう)」へ。育苗期間では健康なのりを育てるため、網を干す・洗浄する地道な作業をひたすら繰り返します。そして一枚ずつ海面に網を張り直す「本張り」を行い、海苔が十分育ったところで、専用のもぐり船で海苔を刈り取ります。「海苔の出来は天候や水温などに大きく左右されるため、そのあたりを見定めつつ慎重に行っています。」と雄二さん。収穫した海苔は、陸の加工工場へ運び、洗浄・裁断した後、脱水や乾燥などを経てようやく「乾(かん)のり」(味付けや火入れ前のシンプルなのり)が完成。「一旦のりが工場に入ると家族で交代しながら24時間体制でのりの加工作業を行います。海苔の黒みやツヤをできる限り引き出した本当に美味しい海苔をつくるには、海苔の状態を見ながらの細かい微調整が必要とされます」と雄二さん。海水温の下がる10月頃から本格的な作業がスタートし、最初の乾のりができるまで最短でも約3ヶ月はかかるというから驚きです。

「のり共進会」で最高位を3度受賞

  • 乾のり

    乾のり

海苔生産業を始めてから順調に生産実績を重ねていた雄二さんですが、1990年代に一つの転機がありました。加工工場で製造した「乾のり」は通常、県漁連に出荷され、そこで格付け検査が行われますが、当時、雄二さんの海苔にはそれなりの良い等級がついており、品質にも自信を持っていたそうです。ところがある日、同じ海苔生産業者から「あんたは(のり共進会で)賞をとっていないじゃないか。それで良い海苔を作っているといえるのか」と言われ強くショックを受けます。「今でも忘れられない言葉です。それまで賞を意識したことは一度もなかったのですが、それならやってやろうと一念発起しました」と雄二さん。翌年から、さらに高品質な海苔づくりを追求し、加工の方法なども見直しました。その結果、平成4年度(1992年度)「のり共進会」で第2位の水産庁長官賞を受賞。その翌年には最高位となる農林水産大臣賞を受賞したのです。令和5年現在までの入賞回数は、農林水産大臣賞3回を含むトータル計6回!見事にその実力を証明しました。

自社ブランド「鷲羽のり」を展開

 「のり共進会」での入賞をきっかけに、雄二さんは自社で生産した海苔のブランド化に乗り出します。それが平成27年(2015年)に誕生した「鷲羽(わしゅう)のり」です。その動機は「せっかく良い海苔を作っているのだから、出荷して終わりではなく、自分たちで責任を持って良い商品を届けたい」という強い気持ちからでした。名前の由来は下津井のすぐそばにあり、岡山県倉敷市の代表的な景勝地の一つ「鷲羽山」から。雄二さんの娘・洋子さんが発案しました。「下津井と縁の深い鷲羽山から名前をとり、そのブランドが広まることで地元に恩が返せれば」と洋子さん。このブランド化・販売開始にあたり、「本当に良い海苔しか市場にださない」と誓いをたて、収穫される海苔の中で一番美味しいとされる「一番摘み」の海苔を中心に、特に高品質なもののみ使用して製造。味付け海苔をはじめ、焼きのり、塩のりなど、家庭用としてはもちろん、ギフトとしても喜ばれるラインナップとなっています

母親目線で作られたアイデアのり

  • アイデア商品

    アイデア商品

  • 「瀬戸内海のお魚たち かわいいのり弁」

    「瀬戸内海のお魚たち かわいいのり弁」

  • ジーンズの町・児島をイメージしたお土産用カット海苔

    ジーンズの町・児島をイメージしたお土産用カット海苔

ベーシックな「鷲羽のり」に対して、母親目線のアイデア商品として、話題となっているのが「キャラクター海苔」です。「子育てをきっかけに、こどもに楽しく食べてもらえるような商品があったらいいなと思ったんです」と、発案者で広報担当でもある洋子さん。令和3年(2021年)、第一弾としてタコやイルカ、亀など海の生物をモチーフにした「瀬戸内海のお魚たち かわいいのり弁」を発売し、手軽にかわいいおにぎりやキャラ弁が出来るとマスコミの注目を集めました。この成功を受け、令和4年(2022年)には第2弾としてジーンズの町・児島(倉敷市児島地区)をイメージしたお土産用カット海苔を発売。これは当初、スタンプラリーの賞品として児島商工会議所から依頼されたもので、ジーンズ柄のスタイリッシュなパッケージに児島の代表的産業の学生服や瀬戸大橋などをかたどった海苔が3種類封入されています(現在、鷲羽山レストハウスのみで取り扱い中)。

ビームスジャパン監修の商品も

  • 「桃太郎のり」

    「桃太郎のり」

  • 「焼きのり桃太郎伝説」

    「焼きのり桃太郎伝説」

同じく令和4年(2022年)、第3弾として岡山ゆかりの昔話・桃太郎のキャラクターがデザインされた「桃太郎のり」「焼きのり桃太郎伝説」を発売。実はこの2つの商品は岡山県の商品開発支援事業に洋子さんが応募し採択されたもので、日本の様々な魅力を海外に発信するビームスジャパンの監修・サポートを受けながら商品開発を行ったのだそう。表情豊かな桃太郎のキャラクターがお弁当や食卓に花を添えてくれると大きな話題になりました。さらに、岡山県内の企業とコラボし、海苔を使ったお土産用スイーツや海苔の端材で海苔ペーストなどを手掛けるなど、これまでにない新たな商品を次々に生み出しています。

新旧世代が協力しあい、地元に愛される海苔づくりを志す

  • 南條洋子さん

    南條洋子さん

 高品質な海苔の生産を基盤としつつ、自社ブランド化やアイデア商品など新たな広がりを見せている南條海苔。今後の目標について雄二さんと洋子さんに尋ねてみました。「以前は(1年のうち)7ヶ月働いたら次の1年は生活できると言われていましたが、海苔の単価が下がってきており、乾のりの製造だけでは厳しいのが実情です。そこで、いろいろなこと(自社ブランド化やキャラクター海苔など)をする必要がでてきました。しかし、家族や従業員のためにこれからも頑張りたい。賞も毎年狙っていきます」と雄二さん。年々海苔づくりの環境は厳しさを増しているのだそうですが、それでも、「これまでお世話になった地元に海苔で少しでも恩返しできれば」と雄二さんは笑います。洋子さんも「「鷲羽のり」が地元の人に愛される特産品となり、手土産は「鷲羽のり」にしようと思っていただけるようにがんばりたいですね」と語ってくれました。現在、同社の商品は岡山県内の小売店を中心に飲食店や宿泊施設など約50店舗で取り扱われています(詳細は同社HP参照)。新旧世代が協力しあい生み出す、観光物産のカタチ。岡山が誇る特産品の新たな展開に、これからも目が離せません。