株式会社襟立製帽所/襟立重樹さん

襟立製帽所は、かつて麦作が盛んだった浅口市において、昭和35年(1960年)麦わら帽子の製造で創業。二代目社長の襟立重樹さんは、アパレル業界で商品企画・営業職を経験した後、平成16年(2004年)に同社に入社。先代から受け継いだ職人技に、優れたデザイン性を加えたオリジナル帽子の企画・製造・販売を展開しています。平成23年(2011年)倉敷美観地区に直営店をオープン。井原市や倉敷市児島地区のデニムなど地元産の生地を使った付加価値の高い帽子製造を行うかたわら、地元のものづくりを発信する複合施設「クラシキクラフトワークビレッジ」に参画し、国内外から訪れる観光客に向けて岡山県の魅力発信に貢献しています。

アパレル会社から帽子製造業へ転身

  • 本社工場のある浅口市鴨方町

    本社工場のある浅口市鴨方町

  • 同社のキャラクター「エリットくん」

    同社のキャラクター「エリットくん」

浅口郡鴨方町(現・浅口市)で生まれ育った襟立さん。学生時代の関心はもっぱら帽子より洋服でした。大学卒業後は岡山市内のアパレル会社へ就職し、約17年間商品企画・営業職を経験。40歳を間近に迎えた頃、父親が襟立製帽所の廃業を考えていることを知ります。「父は継いでほしいとは思っていなかったようですが、私自身があらためて家業について振り返ってみた時、ふと〝襟立製帽所“という名前を残すことが自分の使命ではないかと感じた瞬間があって」と襟立さん。長年製造してきた様々な帽子は、次第に安い海外製造が当たり前になってきていました。家業と会社の名前を守れるのは自分しかいない…。襟立さんは家業を継ぐことを決意します。

下請け体質脱却を目指しオリジナル帽子の企画販売へ

  • 倉敷アイビースクエア

    倉敷アイビースクエア

  • 倉敷美観地区

    倉敷美観地区

平成16年(2004年)、襟立製帽所に入社。高度経済成長時代の大量生産や下請けによる受注から脱却するため、襟立さんはまずオリジナル帽子の企画・販売をスタートさせます。高度な職人の手業に、高いデザイン性を兼ね備えたオンリーワンの商品を手がけることで他店との差別化を図ることにしたのです。とはいえ、良い商品を作っても安定的に販売できる場所が無い状態でした。そんな時、倉敷美観地区で空き店舗の話が持ち上がります。「県外からのお客様が多く、浅口市が帽子の産地であることなど含めて情報発信するのに最適な場所でした。2007年頃からアイビースクエアでシーズン毎に出店販売し、その時に好感触だったこともあり、出店を決めました」と当時を振り返ります。

倉敷美観地区に直営店がオープン

平成23年(2011年)初の直営店「襟立製帽所倉敷本町店」を美観地区内にオープン。製造メーカーが企画から製造販売まで手掛ける帽子店は当時としては珍しく、作り手から直接購入できる安心感をはじめ、オーダーメイドや修理まで気軽に相談できる点が支持され、着実にファンを増やしていきました。「店舗ではただ帽子を売るのではなく、専任スタッフがその人の身長や顔の形から似合う帽子やかぶり方までアドバイスします。直営なので店舗でいただいた要望を本社工場に持ち帰り、スピーディーに提案することもできます」。それまでは問屋や商社の担当者とのやりとりがほとんどでしたが、店舗を持ってからはお客様からの要望を直接商品開発に生かすことができるうえ、難しいリクエストに応えることでスタッフの技術レベルも向上したそうです。

デザイナーのアイデアと職人の技が光る高品質な帽子

  • 希少な専用ミシンで縫い上げられるブレード帽子

    希少な専用ミシンで縫い上げられるブレード帽子

  •  このブレード帽子はわずか5mm幅のテープを採用

    このブレード帽子はわずか5mm幅のテープを採用

  •  こんな複雑な形態でも職人の技術で商品化が実現

    こんな複雑な形態でも職人の技術で商品化が実現

同社が取り扱う帽子は、クロッシェ、キャスケット、ベレー、ニット帽、ハットなど、実にバリエーション豊富。デザインは服飾専門学校を卒業後バイヤー経験のある森元ミカさんが担当し、本社工場の技術スタッフたちが形にしていきます。なかでも麦わら帽子の製造技術を進化させた「ブレード帽子」は熟練の職人技が光る逸品。ブレードとは5~10mmの幅の繊維をテープ状にした素材。これを帽子の木型に合わせて左右の手の力加減のみで立体に縫い合わせていきます。この全国的にも希少な縫製技術と襟立さんがアパレル時代に培った素材の知識の合わせ技で、同社ならではのオリジナル商品が誕生しています。

「クラシキクラフトワークビレッジ」に参画

  • 岡山産のデニムで作られ た洋服

    岡山産のデニムで作られ た洋服

  • 児島で染色された生地で作ったオリジナル帽子も

    児島で染色された生地で作ったオリジナル帽子も

平成29年(2017年)、直営店のある倉敷美観地区の本町通りに、築170年の町家をリノベーションした商業複合施設「クラシキクラフトワークビレッジ」がオープン。倉敷や周辺地域の工房5店舗が集まり、岡山県のクラフト(=手仕事)の魅力を、国内外の観光客に広く発信する拠点となっています。襟立さんは同施設の「倉敷のものづくりを世界へ発信する」というコンセプトショップに参画し、「eritto store +ERITTO&Co.labo」をオープン。オリジナル帽子に加え洋服やバッグなど生活にまつわる雑貨の製造販売をしています。「こちらでは岡山県産の綿織物で開発した商品をたくさん揃えています。井原デニムのオリジナルテキスタイルで作った服や雑貨、児島で染織した生地の帽子など、地元メーカーとコラボしたアイテムは海外のお客様にも好評です」。

付加価値の高い岡山の帽子づくりを国内外へ発信

  • 個性的な「ぼうしのランプシェード」

    個性的な「ぼうしのランプシェード」

  • 全国各地で帽子の実演販売

    全国各地で帽子の実演販売

常に新しい分野へチャレンジし、斬新なアイデアで着実に事業を拡大している襟立製帽所。2021年(令和4年)には岡山県の商品開発支援事業に採択され、BEAMS  JAPAN(ビームスジャパン)とコラボして桃のカバー、小物入れ、ランプシェードなどユニークな小物を次々に開発。どのアイテムも岡山の特性を生かしながら実用的でもある点がメディアからも注目されました。また、季節ごとに全国の百貨店などに赴いて、ブレードミシンを使った帽子の実演販売を行い、販路開拓にも精力的です。今後の目標について襟立さんは「浅口市が帽子の産地であることを含め岡山の良さを伝えたい。そしてただ帽子を売るのでなく、店舗でのコミュニケーションも旅の素敵な思い出として持ち帰っていただき、購入した帽子を見てまた岡山に行きたいと思っていただければ」。浅口市から倉敷、倉敷から県外そして海外へ。襟立さんは付加価値の高い帽子作りを通して岡山のものづくりの良さを発信し続けています。