簡素な中に美しさが宿る、土と炎が織り成す芸術品『備前焼』

千年の時を超えて愛され続ける日本最古の焼き物

瀬戸、常滑、越前、信楽、丹波とともに、日本六古窯(にほんろっこよう)のひとつに数えられる備前焼。歴史は日本六古窯の中でもっとも古いとされ、千年以上も窯の煙を絶やしたことがない由緒ある焼き物です。
古墳時代に朝鮮半島から渡来し各地へと広がった「須恵器(すえき)」と呼ばれる焼き物がその起源で、鎌倉時代後期には備前焼特有の茶褐色へと変化を遂げていきました。大甕や壺、すり鉢などの日用雑器として愛されてきた備前焼ですが、桃山時代になると、簡素な美しさが「わび・さび」の茶道の精神に合致。焼き物として確固たる地位を築くまでになりました。
江戸時代には藩の保護を受け、一層の繁栄を遂げたものの、その後は他の焼き物に押され、戦時中には、わずか数軒の窯元だけという危機的状況を迎えたこともありました。戦後、日本経済の復興の波に乗って伝統文化が再評価されると、備前焼にも注目が注がれるようになり、現在では多くの窯元や陶工が集まっています。また、金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄、伊勢﨑淳の5人の人間国宝も輩出。国内外で脚光を浴び、その名をとどろかせています。

釉薬も絵付けも施さない、炎が生み出す窯変(ようへん)の美

備前焼の特徴は、釉薬も絵付けも施さない、簡素で素朴な美しさにあります。しかし、よく見ると、その表情は変化に富み、一つとして同じものがないことに気付きます。
備前焼に表情を刻むのが、窯の中で赤く踊る「炎」です。約1,230℃にも達する窯の中で、じっくりと焼くこと約10日間。須恵器の頃より受け継いだ「焼締め」技法です。
  • 胡麻(ごま)

    胡麻(ごま)

  • 桟切(さんぎり)

    桟切(さんぎり)

  • 緋襷(ひだすき)

    緋襷(ひだすき)

登り窯 、松割木(赤松)の燃料を用いて、千年続く焼締め技法で焼成することで、焼く前には何の模様もなかった陶肌に炎の足跡「窯変」が現れます。
灰が積もり、いぶし焼きされることで、ネズミ色や暗灰色が生じる「桟切(さんぎり)」、灰が高熱で溶けて自然釉化した「胡麻(ごま)」、ワラを巻くなどして、緋色の線を現す「緋襷(ひだすき)」など、釜内の作品の置き方、重ね方を工夫することで、個性豊かな窯変が生み出されます。灼熱の炎が描く千差万別の窯変こそが、備前焼最大の味わいといえるのです。

美しさの根底に備前の土と匠の技あり

  • 原料となる土「ひよせ」

    原料となる土「ひよせ」

  • 「ひよせ」の寝かし

    「ひよせ」の寝かし

絵付けも釉薬も施さない備前焼。「一土、二焼け、三形」といわれるほど、「土作り」は重要な工程です。
原料となる土は、備前市伊部(いんべ)地区から香登(かがと)地区にかけて堆積した「ひよせ」と呼ばれる田んぼの底から採取したもの。鉄分と有機物を多量に含んだ粘土質の備前の土は、炎と反応することで多彩な窯変が現れるのだといいます。採土された「ひよせ」は1~2年風雨にさらし、その後、粘土の粒子の大きさを分ける「水簸(すいひ)」、熟成させる「寝かし」を行い、きめの細かい粘土になったら、いよいよ成形へと移ります。
備前焼はロクロで成形するのが一般的です。土の状態を見極め、手の感覚を頼りに次々と作品が生まれる様は圧巻。重厚感あるものだったり、繊細な造形だったり、作家ごとに作風もさまざまです。伝統的な花器や茶器はもちろん、最近ではビアカップやマグカップなど、現代の生活に溶け込む器も作陶されています。
千年続く古式ゆかしい焼き物、備前焼。使うほどに風情が増す逸品を、日常使いしてみてはいかがでしょうか。

取材協力:備前焼陶友会