ラストサムライ・瀧善三郎のふるさと御津で歴史街道めぐり(岡山市)

約150年前、明治元年に起きた神戸事件。この事件で日本を救ったラストサムライ・瀧善三郎(たきぜんざぶろう)のふるさとが、岡山市北区御津(旧御津郡御津町)です。御津地域の中心地である金川(かながわ)は、古くから街道が通る宿場町として発展し、旭川や宇甘川を高瀬舟が行き交う交通の要衝でした。今回は、瀧善三郎の顕彰活動の機運が高まっている御津を巡ってきました。
掲載日:2025年07月11日
  • ライター:井伊ひろゆき
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御津の歴史について

岡山県南部の山間に位置する「御津(みつ)」には小さな古墳が残っているなど、縄文時代から人間が暮らしていた形跡があります。御津の中心地・金川は、戦国時代に備前国の守護職だった松田氏の城下町として発展しました。江戸時代には備前藩家老・日置氏の陣屋町として栄え、旭川と宇甘川が流れるこの地域は昔から交通の要衝として栄えてきました。明治時代以降は近隣の村と合併などを繰り返し、昭和31年に現在の御津町域となりました。平成17年に岡山市に編入合併し、現在は「岡山市北区御津」として町の名前が残っています。

ラストサムライ・瀧善三郎のふるさと

江戸時代(1837年)に備前岡山藩の御津・金川に生まれた瀧善三郎は、備前岡山藩の家老・日置家に砲術の名手として仕えていました。瀧善三郎生誕の地を表す石碑が岡山県立岡山御津高等学校に建立されています。
※石碑は岡山県立岡山御津高等学校の敷地内にあります。校内への無断進入、また生徒・学校関係者の撮影はご遠慮ください。(裏面しか見えませんが敷地外からの撮影は可能です)

【瀧善三郎生誕地石碑】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川929(御津高校敷地内)
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分
駐車場:なし

明治最初の外交事件~神戸事件~

1865年、西宮(現在の兵庫県西宮市)の警備の命を受け、備前藩は約2,000名の軍勢を派遣することになります。瀧善三郎も日置隊の第三大砲隊隊長として岡山を出発します。1月11日、隊が神戸村の三宮神社(現在の兵庫県中央区三宮町)にさしかかった際、フランス兵が隊列を横切ったため善三郎がこれを静止するもするも、銃撃戦へと発展。死傷者は出なかったものの、外国勢はこの事件を言いがかりに神戸村を不法占拠。さらに日本政府(明治新政府)に責任を負わせようと執拗に迫り、瀧善三郎が全ての責任を一人で背負い切腹したのが「神戸事件」です。

瀧善三郎ってどんな人?

備前岡山藩日置家家臣、瀧助六郎正展の次男として生まれた善三郎正信。
善三郎自身についての記録は少ないのですが、小さい頃から剣や弓の稽古に励み、特に砲術の腕前はピカイチだったとか。日本を見下し神戸の植民地化の動きや、理不尽な要求をしてくる外国勢に対し、古来からの作法での切腹(江戸時代以降は自ら腹を切らず、介錯が首を落とすだけなど簡略化されていた)で外国勢にサムライスピリットを見せつけ、不穏な流れを見事に断ち切りました。

さらにその後、瀧善三郎の武士道に感銘を受けた英国外交官がが本国で事件のことを記した新聞や本が一大センセーションを巻き起こし、その本を基に新渡戸稲造博士が執筆した世界的ベストセラー「Bushido The soul of Japan」 により世界中で瀧善三郎の武士道とその生き様が知られることとなり、セオドア・ルーズベルト大統領、ジョン・F・ケネディ大統領、トーマス・エジソンなど世界中の人々に影響を与えました。
決して命を無駄にするのではなく、自らが犠牲になることで多くの大切な人たちを守った善三郎の決断は、世界中の人々の心を動かし今でも語り継がれているのです。

455年ぶりに七夕祭りが復活!~七曲神社~

1473年、戦国武将松田氏がこの地に金川城を築城。城がある臥龍山の懐に七曲大明神をおいたのが神社の始まりとされます。1568年の松田氏滅亡により衰退しますが、江戸時代に日置家の崇敬を受け復活。明治時代に「七曲神社」と改め、金川の氏神として地元の人たちから親しまれています。現在では、七曲神社・瀧善三郎正信を偲ぶ会・一般社団法人歴史新大陸による「瀧善三郎顕彰金川まちおこしプロジェクト」が行われており、瀧善三郎正信君義烈碑の説明看板や神社ホームページ開設をはじめ、455年ぶりに復活した毎年7月に行われる「七曲七夕みたま祭り」の開催など、様々な取り組みが行われています。

【七曲神社】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川602
TEL:090-5264-0447
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分
駐車場:あり(境内内)

御津金川の戦国武将「松田氏」

備前松田氏は相模国(現在の神奈川県)の出身と言われており、戦国時代、備前西部の実質的な守護代として勢力をもっていた松田元成が、金川に城と城下町を整備しました。

松田氏の居城~金川城跡~

「金川城」(玉松城)は戦国時代に松田氏の本城として整備されたと伝わっています。旭川や宇甘川、街道などが集まる地の利を活かし守護代として活躍していましたが、1568年に宇喜多直家によって金川城が落城。松田氏は滅亡してしまいます。
この「金川城」の目玉の一つが井戸。本丸跡付近には井戸が残っており、「天主の井戸」は直径約8m、深さ約10mもあり今でも見ることが出来ます。また石垣や堀切なども一部残っており、本丸跡からは周囲の山々を見渡せ、当時の面影を見ることが出来ます。
【写真提供:中西康美】

岡山市御津郷土歴史資料館

金川にある「岡山市御津郷土歴史資料館」では、古代から現代までのこの地域の歴史を知ることができます。館内には御津で発掘された石鏃など貴重な考古資料も展示されています。瀧善三郎を紹介するコーナーもあり、御津を知るには欠かせない場所です。

【岡山市御津郷土歴史資料館】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川529
TEL:086-724-3581
開館時間:9:00~17:00
休館日:月曜日(休日のときは、その翌日)、祝日の翌日(土曜日・日曜日以外)、年末年始(12月28日~1月4日)
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分
駐車場:あり

宇甘川の~流れ橋~

「岡山市御津郷土歴史資料館」の裏手には宇甘川(うかいがわ)が流れており、近くには板張りのいわゆる「流れ橋」があります。金川はかつて津山往来が通っていましたが、この辺りで一度川を渡るルートになっていたそうで、その名残だと言われています。実際に歩いて渡ることができるので、一度訪れてみてください。

【流れ橋】…洪水の際にはわざと流れる仕組みになっていて、橋の両端は固定され、板だけが繋がり両岸に分かれて流される仕組みです(柵がなく、滑りやすいので渡る際は事故のないよう十分にご注意ください)

江戸時代の庄屋~河原邸~

金川の町から宇甘川を上流に向かっていくと「河原邸」があります。この建物は戦国時代、虎倉城の城主伊賀氏の重臣であった河原家が治めていた紙工(しとり)地区にあります。母屋は1839年に建築されたもので、江戸時代後期の備前岡山藩の庄屋の暮らしぶりを見ることができます。週末は「茶房河原邸」も営業しています。

【河原邸】
所在地:岡山県岡山市北区御津紙工2248
TEL:086-726-0010
開館時間:9:00~16:30
※茶房河原邸(飲食)は金・土・日曜日(10:00~15:00)のみ営業
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、12月28日~1月4日
アクセス:JR金川駅から車で約20分
駐車場:あり

横溝正史の長編推理小説「犬神家の一族」ロケ地

「河原邸」は、横溝正史の長編推理小説が原作の「犬神家の一族」のドラマ撮影などでロケ地となっており、作中に登場した風景なども見ることが出来ます。

紅葉で有名~宇甘渓~

金川の町から宇甘川を上流に向かうと「宇甘渓」があり、ここは秋になると紅葉の名所として有名です。
「赤橋」の近くには駐車場と、珍しい(?)岩に囲まれたお手洗い「岩屋のかわや」があります。
※宇甘渓の所在地は加賀郡吉備中央町

陶芸教室~つくも陶工房~

陶芸歴30年の夫婦が営む「つくも陶工房」。有田焼や備前焼も経験があるご夫婦が、初心者にも丁寧に教えてくれます。御津金川を訪れた記念にオリジナルの作品を作ってみませんか?
「陶芸教室」…手びねり2,000円~、電動ろくろ3,000円~
※詳しくはお問合せください

【つくも陶工房】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川653
TEL:086-737-1076
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分

御津ごはん処① 美津葉かながわSAKAGURA店

旧家武藤酒造場を改装した「かながわSAKAGURA」にある、仕出し料理のお店「美津葉」。店舗は本店とかながわSAKAGURA店の2ヶ所あります。
かながわSAKAGURA店では、うどんやラーメンのほか、定食、お寿司など様々なメニューがあります。また、酒蔵内には無料ギャラリーがあり、御津の歴史が分かりやすく紹介されています。

【美津葉「かながわSAKAGURA店」】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川690-1
TEL:086-724-3280
営業時間:11:00~14:00(麺類、喫茶は15:30までオーダー可能)
休業日:月曜日(祝日の場合は営業、火曜日が休業)
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分
駐車場:あり

定食やお寿司などメニューが豊富~美津葉 かながわSAKAGURA店~

定食をはじめ、お寿司、刺身、天ぷら、和そば、うどんなどメニューが豊富な美津葉「かながわSAKAGURA店」。旧家武藤酒造場を改修した店内で、酒蔵の雰囲気を楽しみながら食事ができます。
 

御津ごはん処② 美津葉本店

かながわSAKAGURA店から徒歩約5分のところにある本店は、昼時になると地元のお客さんで賑わいます。金~日曜日は夜営業(居酒屋)も行われています。

【美津葉「本店」】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川980
TEL:086-724-0086
営業時間:11:00~14:00(月~金曜日)、17:15~21:00(金曜日~日曜日)
休業日:なし
アクセス:JR金川駅から徒歩約10分
駐車場:あり

ラーメンがオススメ!美津葉本店

写真は塩チャーシュー麺。たっぷり乗ったチャーシューと塩気が、散策した後の体に染みわたります。

上品な甘さが味わえる~まつだ牧場 ミルク工房~

御津金川から車でしばらく走った山の上にある牧場。牧場直営のミルク工房では上質なジェラートを頂くことができます。町からは離れていますが、「かながわSAKAGURA」でもアイスクリームなど一部商品が販売されています。

【まつだ牧場 ミルク工房】
所在地:岡山県岡山市北区御津河内2987-119
TEL:086-724-3399
営業時間:10:00~17:45(土日祝のみ営業)
休業日:平日
アクセス:JR金川駅から車で約20分
駐車場:あり

搾りたて生乳を使用したジェラート

ジェラートはミルクや抹茶、黒豆きなこ、いちごミルクなど種類も豊富で、トリプルにすると同時に3つの味を楽しむことができます。

カフェ&レストラン~らんぷる~

JR金川駅からほど近い所にあるカフェレストラン「らんぷる」。レトロな落ち着きのある店内で、地元の学生などがよく利用する駅近のお食事処です。定食や珈琲などをいただけます。
※日替定食(30食限定)は日・祭日はお休み。

【らんぷる】
所在地:岡山県岡山市北区御津金川440
TEL:086-724-0914
営業時間:8:30~18:00(モーニングサービス~11:00/お食事は11:00~)
休業日:火曜日
アクセス:JR金川駅から徒歩約5分
駐車場:あり

御津のお祭り・イベント情報

【2025年の御津のオススメお祭り・イベント】
10月4日(土)/河原邸お月見会(河原邸)
11月1日(土)・2日(日)/御津公民館祭り・獅子舞フェスタ(御津公民館)
12月14日(日)/みつ健康マラソン(御津スポーツパーク)
※日にちや内容は変更になる場合があります。詳しくは関係各所へご確認ください。

舞台「ラストサムライ 滝善三郎のBUSHIDO」

瀧善三郎のエピソードは2025年2月に「ラストサムライ 瀧善三郎のBUSHIDO」として舞台化され、岡山で上演されました。舞台では、瀧家の日常から事件発生の経緯、備前岡山藩や明治新政府、外国公使たちの国の存亡を賭けた駆け引きなどが描かれており、これまでほとんど知られていなかった神戸事件と瀧善三郎が注目されることとなりました。

まとめ

明治維新が起こり武士の世が終わりを告げ、世の中が激変する中、義を忠実に貫き愛する人々を守り抜いた瀧善三郎。

御津は近年、地域おこしの活動が活発に行われており、注目度が高まっている地域です。元々獅子舞が盛んな地域でもありますが、担い手が減ってきている獅子舞文化の継承を地元の学生が主体となり、ワークショップやイベントを実施するなど若者も元気な町です。未来を担う若者たちも注目している「ラストサムライ・瀧善三郎」のふるさとに、ぜひ皆さんもお越しください。

取材協力:
瀧善三郎顕彰金川まちおこしプロジェクト(七曲神社・瀧善三郎正信を偲ぶ会・一般社団法人歴史新大陸)
みつ元気プロジェクト(朝日塾中等教育学校・岡山県立御津高等学校・岡山市立御津中学校・岡山市立御津公民館)

御津(金川)へのアクセス

【電車】JR岡山駅からJR金川駅まで津山線快速列車もしくは普通列車で約30分
【車】JR岡山駅から約40分、岡山桃太郎空港から約20分、山陽道岡山ICから約20分

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