牛窓の古墳が面白い!恋人たちのパワースポットにウルトラマンエースの聖地も(瀬戸内市)

岡山で古墳といえば「造山古墳」や「こうもり塚古墳」「作山古墳」など、吉備路エリアがよく知られていますが、古墳マニアにとって岡山の古墳を語るのにはずせないのが牛窓の古墳群。牛窓湾を囲むように5つの前方後円墳が築かれています。海の中に道が現れる「黒島ヴィーナスロード」で人気の黒島にも前方後円古墳があります。これらの古墳を瀬戸内市の岡山県文化財保護指導員の方の案内で回ってきました。
掲載日:2025年07月07日
  • ライター:曲輪衆◎たけ
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牛窓の古墳群の概要

瀬戸内市の旧牛窓町では、百数十基の古墳が確認されています。岡山県内でも古墳のとても多い地域で、牛窓湾を取り囲むように5基の前方後円墳が存在しています。(上写真/岡將男作図・岡山古墳図鑑より転載・NPO法人公共交通ラクダ 提供)これらの古墳は4世紀から6世紀後半にかけて築かれたもので、他にも「牛窓オリーブ園」近くの阿弥陀山古墳群には、50基を優に越える古墳が確認されていることにも注目です。

なぜ、牛窓に古墳が集中してるの?

牛窓の古墳研究の第一人者である岡山理科大学の特任教授、亀田修一先生(考古学)によると、牛窓にある前方後円墳は4世紀中頃から6世紀後半にかけて築かれたとされています。前方後円墳は当時のその地の首長が築いたものですが、誰もが勝手に築けるわけではなく、大和王権とかかわりを持った中で築かれてきたものです。約250 年という長期にわたって前方後円墳が築かれ続けた例は県内でも少なく、史記にも出てくる吉備王国と大和王権の双方に重要視された吉備海部直(きびのあまべのあたひ)一族のものではないかと考えられています。海上交通を背景に朝鮮半島との外交実務を担った一族の拠点として、牛窓周辺はこれだけの規模の古墳を継続的に築くことができる経済力や、政治力をもった地域であったことを物語っています。だから牛窓地域には80メートルを越えるような大規模な前方後円墳をはじめ、多くの古墳が築かれたのですね。写真は「黒島古墳」のある黒島です。

1.天神山古墳

それでは牛窓の古墳を前方後円墳を中心に回っていきましょう。最初は「天神山古墳」です。 牛窓の観光案内所「瀬戸内きらり館」のある裏山に位置しています。「牛窓天神社」まで階段を登り、本殿のすぐ裏が「天神山古墳」です。
天神山の山頂尾根を加工して前方部を南に向け築造されており、よく見ると円礫(つぶて)による葺石(ふきいし)もみられます。後円部の頂部に石が露出していますが、これは竪穴式石槨(せっかく)の一部と思われる板状割石だということです。円筒埴輪・壷形埴輪の破片も見つかっており、その特徴から4世紀中葉から後半の古墳と考えられ、5基の前方後円墳のうち最初に築造された古墳です。

【天神山古墳】※瀬戸内市指定文化財
所在地:瀬戸内市牛窓町牛窓
形式:前方後円墳
墳長:約85m

2.鹿歩山古墳

牛窓港から西を見ると半島が2つ南に延びています。その手前の半島の山上にある鹿歩山に築かれている古墳です。元牛窓ホテルが山頂近くにあり、車も止められます。「鹿忍神社」の入口横に案内板があり、その奥が「鹿歩山(かぶやま)古墳」です。
古墳時代中期後半の5世紀後半に築造されたと考えられています。三段築成になっており、現地に行くとよくわかりますが、方部周辺では現存している周濠を見ることができます。この周濠を含めると100mを越える規模です。こちらでも葺石や円筒埴輪が確認されています。

【鹿歩山古墳】※岡山県指定文化財
所在地:瀬戸内市牛窓町鹿忍
形式:前方後円墳
墳長:約84m

3.阿弥陀山古墳群

牛窓地区のほぼ真ん中に位置する人気観光地「牛窓オリーブ園」のある阿弥陀山には、57基もの古墳が確認されています。園内にも横穴石室墳が数基点在しており、古墳も見学できて観光も楽しめる一石二鳥のパラダイス。 また、38・46号墳は1972年放送の「ウルトラマンエース」16話、「夏の怪奇シリーズ怪談牛神男」超獣カウラのロケ地で、いまだにウルトラマンマニアの方が訪れるそうです。
阿弥陀山の古墳は牛窓地区にある古墳としては新しいものです。といっても6世紀後半から7世紀にかけて作られたと考えられています。 「牛窓オリーブ園」の売店がある建物の屋上展望台からは牛窓湾を囲むように築かれた5つの前方後円墳が全て一望できます。最初にここを訪れて、位置関係を把握するのがおすすめです。
※「阿弥陀山古墳群」についてはおか旅に詳しい記事があるので、ぜひそちらもご覧ください。
 
【阿弥陀山古墳群】
所在地:瀬戸内市牛窓町牛窓
※牛窓オリーブ園利用の方は無料駐車場あり

4.二塚山古墳

5基の前方後円墳のうち西端に位置しています。後円部に玄室長さ約7メートル、幅約2メートル、片袖の横穴式石室があります。6世紀後半に築造されたと考えられていて、5つの前方後円墳のうち一番最後に築造された古墳です。

【二塚山古墳】※岡山県指定文化財
所在地:瀬戸内市牛窓町鹿忍6348
形式:前方後円墳
墳長:55m

5.黒島古墳

「黒島ヴィーナスロード」で人気の牛窓湾内の黒島。ここには島中央の山上の最高所に前方後円墳の黒島1号墳があります。島の桟橋から山上に向かう道を約10分。「武内神社」の赤い鳥居を潜り階段を登るとそこが後円部です。「天神山古墳」の次、古墳時代中期5世紀前半頃に築造されたと推定されています。

 
黒島1号墳の後円部北側には陪塚(ばいちょう・ばいづか)とみられる円墳の黒島2号墳があります。赤い鳥居をくぐらずに北側に向かうと、少し盛り上がった場所(頂部に小さな祠があるところ)があります。陪塚とは大型の古墳(主墳)に付随して築かれた小型の古墳を指します。主墳に埋葬された有力者(首長)の親族や、その臣下を埋葬するために築かれたと考えられています。県内でも珍しいものです。
 
【黒島1号墳・2号墳】
所在地:瀬戸内市牛窓町牛窓
形式:前方後円墳・円墳
墳長:1号墳81m、2号墳直径12m

「黒島ヴィーナスロード」散策も一緒に

黒島へ渡る方法は、本土側にある「ホテルリマーニ」からの送迎ボート、シーカヤック利用、チャーター船のいずれかです。 干潮満潮の関係で渡れる日は限られますが、送迎ボートがおすすめ。帰りの船の時間が決まっていますので、古墳見学に夢中になりそうな方は島に到着後すぐに古墳を目指し、下山後「黒島ヴィーナスロード」散策の順番です。今回の訪問でも時間は十分ありました。古墳をじっくり楽しみたい方は船のチャーターがおすすめです。

今はなき、波歌山古墳

「波歌山(はかやま)古墳」は前方後円墳ですが、何と1969年に削平されて消滅しています。削平前に岡山県により調査されており、古墳時代後期の6世紀前半頃のものと推定されています。牛窓の人気スポット「牛窓テレモーク」の西側の空地に存在していました。

「古墳から考える古代吉備と大和王権」講演会開催(2025年8月10日)

岡山在住の古墳大好き中学生で、小学生4年生の時に偶然通りかかった古墳を皮切りに約1700基の古墳を巡り、ガイドブック「岡山100名墳」を出版するなど話題の墳活男子「はにおくん」こと坂東郁仁さん。瀬戸内市民図書館にて、彼による歴史探訪講演会『古墳から考える吉備王国と大和王権』が開催されます。牛窓の古墳のお話が聞けるかも。

【「古墳から考える古代吉備と大和王権」講演会】
日時:2025年8月10日(日)13:30~15:00
場所:瀬戸内市民図書館(瀬戸内市邑久町尾張465-1)
定員:40名(先着順)
※参加無料・申込み不要

おしまいに

ご案内いただいた岡山県文化財指導委員・櫻田和子さんからコメントをいただきました。
文化財保護指導員は教育委員会より任命され、担当文化財や史跡を月1回巡視し、関係者への保存・管理に関する助言、指導及び普及啓発活動などを行っています。今回案内してくれた櫻田さんは、黒島古墳などを担当しています。 

櫻田さん「牛窓は岡山県内でも特色ある古墳の集中する地域です。牛窓の古墳を巡り、吉備王国や大和政権との関係に思いを馳せながら歴史ロマンの旅を楽しんで下さい」
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