60年の歴史にありがとう! さようなら「岡山市民会館」 

岡山の文化・芸術の発信施設として60年間という長きにわたってその役目を担ってきた「岡山市民会館」が、2024年3月31日をもって閉館します。
県内外問わず、この場所にたくさんの懐かしい思い出や忘れられない思い出をお持ちの方も多いことでしょう。そんな岡山市民会館の閉館を前に、建物の歴史や裏話、また実際に足を運べる残り少ない機会でもある、3月開催の2つのイベントをご紹介します。
掲載日:2024年02月28日
  • ライター:曲輪衆◎たけ
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2024年3月31日閉館。たくさんの思い出がある「岡山市民会館」

開館以来60年間、岡山の文化芸術発信の拠点としてアーティストのコンサートやライブ、演劇やミュージカル公演などの舞台、テレビ番組などの公開放送、大会、式典、学会等の様々な目的で利用されてきた「岡山市民会館」。
長年、沢山の方が楽しまれたと思います。かくいう私も初めて行ったコンサートは、「岡山市民会館」であった人気フォークブループのコンサートでした。見るだけでなく、音楽や演劇の発表会やコンクールで舞台にも立った方も大勢いらっしゃるでしょう。そんな多くの方の思い出のある会館が、老朽化のため2024年3月31日をもって閉館します。

開館当時の様子を振り返る

岡山市民会館の開館した当時の様子を振り返ってみましょう。
岡山市民会館は1963年開館しました。建築音響学と公会堂の第一人者である佐藤武夫氏の設計により、大本組によって施工されたものです。
市民会館に隣接するNHK会館(現存せず)と向かい側にある山陽放送会館(1962年竣工)の3つの建物が囲む石畳の広場と、その中心に噴水を設置した岡山の一大文化ゾーンでした。
建設地の石山の地盤は岩盤なので、工事は発破をかけるなど難工事だったそうです。
写真は建築中の「岡山市民会館」。
写真提供:RSK山陽放送株式会社 岡山映像ライブラリーセンター

当時の様子を詳しく知りたい方は、山陽放送会館1階にある「岡山映像ライブラリーセンター」がおすすめ。当時の市民会館の写真や映像を見ることができます。

【岡山映像ライブラリーセンター】
所在地:岡山県岡山市北区丸の内2-1-3
TEL: 086-225-8622
入場料:無料
開館時間:10:00 ~17:30
休館日:土曜日・祝日

当時としては最新設備を備えた会館

直径42mの正八角形の大ホール棟と10の会議室をもつ付属棟から構成されています。
大ホールは地上4階、地下1階で、客席は1階と2階合わせて1,718席。1階より2階席の方が席数が多く、2階の最前列中心付近は舞台にも近く舞台奥までよく見えてお勧め。他の席に比べて座席の幅も広くゆったりとしています。
大きなホールは音の反響を良くするため壁面に凹凸を付けていますが、こちらの大ホールの壁面は打ちっぱなしのコンクリートを手で斫って作られています。

必見!2階ホワイエのモザイクガラス

2階のホワイエにある壁面にある、岩淵活輝氏がデザインしたモザイクガラス。館内に彩りを添え、岡山市民会館内部を象徴しています。「岡山市民会館」を訪れた人皆が初めてモザイクガラスを見た時、その美しさに息をのんだことでしょう。それらは改修、修繕されてきてはいますが、開館当時の姿が残っています。

舞台奥にはパルテノン神殿?

舞台の一番奥には、舞台の飾りとしてギリシャ風の柱のモニュメントがあります。可動式になっていて普段は上に上がっています。いつからか“パルテノン神殿”と呼ばれるようになり、これもとても印象深いものでした。

沢山の人達に夢と感動を与えてくれました

「岡山市民会館」では多くの人気アーティストたちのコンサートやライブが行われました。

2月末にはT-BOLANのライブツアーが行われ、「岡山市民会館」での最後のライブを沢山のファンが楽しみました。奈良からお越しの30年間T-BOLANを追っかけてきた熱烈ファン4人組に入場前にお話を聞けました。「知らなかったのですが、閉館して取り壊されるということで…。以前もここでライブをした時に来たんです。大好きなT-BOLANの岡山市民会館での最後のライブをみんなで楽しみたいと思います」と、待ちきれない様子で興奮気味に話してくださいました。

このような光景が60年間ずっと続いてきたんですね。岡山県内だけでなく、遠く県外からもたくさんの人たちがここで大好きなアーティストのライブを見に来て夢と希望と感動をもらいました。

裏話① 石山ツインタワー構想

設計者の佐藤武夫氏は当初、山陽放送のタワーと市民会館にも同じような市民会館の高さを超えるタワー(時計塔)を建て、石山にそびえるツインタワーの景観を計画していました。しかし岩盤処理工事に多額の費用がかかり、議会から市民会館のタワーは必要ないだろうということで、設計変更されてしまいました。
実現していれば石山の景観も違ったものになっていたのでしょうね。

裏話② ホワイエのレリーフ

ホワイエにある巨大なレリーフは、日本画家・吉岡堅二氏による作品『牧神』です。このレリーフもコンクリートの打ちっ放しの壁を手で斫って作られています。当時、2人の職人さんによって彫られたそうです。

裏話③ 幻の2階席仕切り幕

よく見ると2階席最前列のラインの外壁と天井にかけてスリットが入っています。これは1階席だけ使いたい少人数のイベントの時、2階席を幕で隠す予定だった痕跡です。
近年、札幌ドームでこの方式で改修工事がされましたが、「岡山市民会館」では60年前に同じことを考えていたなんてビックリですね。

「岡山市立市民文化ホール」も同時閉館

「岡山市民会館」同様、多くのコンサートや演劇、会合などに利用されてきた「岡山市立市民文化ホール」も2024年3月31日に閉館します。
「岡山市立市民文化ホール」は1976年に開館。802座席のホールを中心に楽屋リハーサル室などがある施設です。

ここで何度もピアノリサイタルを開いた、くらしき作陽大学特任教授でピアニストの芦田田鶴子さんとご一緒する機会があったので、閉館する市民文化ホールへの想いをお聞きしました。

「私がオーストリアから帰国してからしばらくの間、客席規模がちょうどよかったのでピアノリサイタルには市民文化ホールをよく利用させていただきました。ウィーンでも慣れ親しんだベーゼンドルファーというスタンウェイと並ぶピアノを置いてあり、音もとても良いホールでした。やはり思い出深いホールなので、なくなってしまうのはさみしいです」とお話しくださいました。

ラスト2公演は『夢の降る街』と『 LAST SONG FOR 岡山市民会館』

「岡山市民会館」ではこの1年間、閉館記念事業として様々な公演が行われてきました。閉館間近、最後に行われるラストの2つの公演をご紹介しましょう。

ひとつ目のミュージカル『夢の降る街』(脚本・演出:横山由和さん)は、関東大震災から後の1930年ごろの浅草のレビュー小屋(歌って踊って芝居する場所)「喜楽館」でのお話。レビューガールズの皆さんのダンス、歌にも大注目。心温まるミュージカルです。

もう一つは、『 LAST SONG FOR 岡山市民会館』。これが本当にラスト公演です!
岡山市民会館に感謝を伝えようと、地元アーティストたちが集まって、市民会館ありがとう!って歌います。心に残る曲と音、魅惑のステージが繰り広げられます。そして、最後はみんなで…! ともに最後の公演に向けて日々練習・稽古に励む出演者の皆さんを訪ねてみました。

ミュージカル『夢の降る街』(開催日:2024年3月16日・17日)

岡山県で活動する方々が中心で集まったグループで、現在「岡山市民会館」での最後のミュージカル公演に向けて日々練習に励んでいます。
今回は一般公募により出演者オーディションが行われ、プロ・アマ、年齢問わず、幅広い層の方々がステージに立ちます。ほぼ全員がダブルキャストです。
練習風景を見学しましたが、皆さんの熱量と迫力、優雅な踊りや人間の生の歌声に感動して鳥肌が立ちました。本番はいったいどんな舞台になるのだろうと楽しみです。
演者の方々も「岡山市民会館」には数々の思い出をお持ちです。
稽古の合間にお話をお聞きすることができました。

清水ゆきさんは進路に迷っていた高3の時、「岡山市民会館」で行われたある劇団のミュージカルを見て、良かったらこの道に進むと賭けに出ました。現在の活躍を見ると結果は言うまでもないですね。

川上遥菜さん(20歳)は、小学校6年生の時にプロの劇団のミュージカルを見て感激し、この道に進むという夢を持ったそうです。中学生からミュージカルをはじめ、中2の時に教室の発表会で初めて「岡山市民会館」の舞台に立ったそうです。
「学校生活の中でいろんな悩みもありましたが、それを「岡山市民会館」が救ってくれたという気持ちがあり、なくなるのはとても寂しいです」と話してくださいました。
このミュージカルはバンドが生演奏を行います。横山由和さんのこだわりだそうです。舞台を見ながら演者に合わせて演奏するので、演者も奏者も最高のパフォーマンスができるそうです。
奏者もスタッフの方々も「岡山市民会館」には数々の思い出をお持ちでした。初めて行った渡辺貞夫さんのコンサート、お母さんと一緒に行った宝塚歌劇団の公演、なんと51年前に行ったザ・ベンチャーズのコンサートのお話も聞けました。見るだけではなく奏者として、チェリッシュや夏川りみさんのバックバンドとして初出演した思い出や、教えていた学校の音楽コンクールに指揮者として参加したりした音楽家ならではのお話もお聞きできました。
最後に企画・ミュージカルの指導をされている清水ゆきさんからのメッセージです。
「"劇場には魂が宿る"。私たち役者が信じている言葉です。60年生きてきた「岡山市民会館」が、ここでその生涯を閉じます。ありがとうの気持ちを込めて、満席にして見送りたい。心からそう願っています。どうぞ皆さま、最後となる「岡山市民会館」へ足を運んでやってください。そして「夢の降る街」をぜひご一緒に、高らかに歌いましょう! ♪疲れた心癒しに誰もがここへやってくる 拍手と笑い声が聴こえる目を瞑れば(「夢の降る街」歌詞の一節より)」

※チケットは、岡山市民会館の窓口・電話でも販売しています。

LAST SONG FOR 岡山市民会館(開催日:2024年3月23日・24日)

本当のラストの公演。「岡山市民会館」と「てれやカフェ」の主催企画で、岡山を中心に活動するミュージシャン達による、ありがとうという気持ちを込めたラストイベントです。
岡山市在住の小林宏志さんのプロデュースで、小林さんの経営する瀬戸内市の「てれやカフェ」に集う地元岡山を中心に活動している様々なジャンルのミュージシャンたちが出演します。
2月の定期ライブに「LAST SONG FOR 岡山市民会館」に出演されるミュージシャンたちが集まるというのでおじゃましてきました。
とてもアットホームな雰囲気の、約20組による楽しいライブでした。
「LAST SONG FOR 岡山市民会館」に出演する皆さんにも「岡山市民会館」の思い出話がたくさんありました。

プロのジャズシンガーとして活躍中のコジマサナエさん、「初めて行ったプロのコンサートはRCサクセション、おばあちゃんの琴の演奏会、ブラスバンドで初舞台、自分の音楽が始まった場所です。」。

新宅巧治郎さん、「岡山県内の高校の吹奏楽部が年一回集まる演奏会に出ていた青春時代です。」。
田中恵一さん、「中学生の時、ペレス・プラード楽団を見に行きました。LAST SONGでは舞踏と朗読でレクイエム(鎮魂歌)で心を込めます。」。

重光耕治さん、「50年前、大好きな八代亜紀さんと吉幾三さんのコンサートへ行った思い出。最後に同じ舞台に立てるのが嬉しいです。」。
最後に企画をプロデュースされた小林さんに想いをお聞きしました。
「岡山市民会館は私たちの夢の受信、発信地でした。路面電車を降りて曲がり角、岡山後楽園に岡山城、隣には放送局。そんな街の地図が書き換わる前に夢の地図だけでも心に留めておこうとこの企画はスタートしました。市民会館が映し出してくれる最後の夢、ぜひ一緒に観に来てください。」。

※チケットは「岡山市民会館」窓口及びWEB、又はてれやカフェ、牛窓テレモークカフェまで

ちなみに小林さんの思い出は、小学生の時初めて行ったウルトラマンショーで、すぐワキをウルトラマンが駆抜けていったそうです。大きいと思っていたウルトラマンが人間と同じ大きさだったのを見て衝撃を受けたそう。

【てれやカフェ】
所在地:岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓4200-1
TEL:0869-34-5397
営業時間:10:00~18:00
定休日:木曜日

閉館後解体される岡山市民会館 解体後の跡地は?

「岡山市民会館」は岡山城郭内にあり、隣接するNHK会館跡地と、内山下小学校跡地の3つの市有地と合わせて、有効利用されることが昨年策定された岡山城主要部跡地整備方針により決まっています。
具体的にはこれからですが、歴史・文化を活かした「憩いと賑わいの拠点」となるオープンスペース(公園)として新たに整備されることになっています。
岡山市民会館跡地が新たな岡山の顔としてどのように変わっていくのか楽しみですね。「岡山市民会館」のメモリアル的なものを設置することも検討されているということです。

最後に…。岡山市民会館の見学は出来るの?

やはり取り壊される前にもう一度「岡山市民会館」を見てみたいですね。
外部はいつでも自由にご覧いただけます。内部は、イベントや行事がある時は見学はできません。

【岡山市民会館より】
「内部をゆっくり見学できる最後のチャンスは、ご紹介の2公演になります。ホワイエの風景や2Fのモザイクガラスなどゆっくりご覧いただける最後の機会となりますので、より多くの方々にご来場いただけましたら幸いです。」。

さあ、もうすぐ閉館の「岡山市民会館」
ぜひ、思い出の詰まった場所にもう一度訪れてみてください!

【岡山市民会館】
所在地:岡山県岡山市北区丸の内2-1-1
TEL:086-223-2165
FAX:086-223-2169
開館時間:9:00~17:00
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