岡山で「石臼」にこだわる美味しいお店4選 うどん、ガレット、チョコレート、かまぼこ

石挽きやお餅つきでおなじみの「石臼」は、古くから人々の食生活を支えてきました。時代を経て機械化・効率化が進むことで身近ではなくなってきましたが、実は「素材の味を生かす」という強みがある道具なのです。
石臼を使って美味しいメニューをつくる岡山県内のお店を紹介します。石臼・石挽きといえばそばを思い浮かべるかもしれませんが、今回はそば以外のメニューを紹介します。
あえて石臼を使う背景とは? お店によってさまざまなストーリーがありました。
掲載日:2021年07月12日
  • ライター:m.k
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一文字うどん(瀬戸内市)

瀬戸内市長船町の吉井川沿いにある一文字うどん。備前福岡の刀工「福岡一文字」が店名の由来となっています。創業以来、地元に根ざした店作りを続けるセルフうどん屋です。
一文字うどんのうどんは、自家製石臼製粉の小麦粉で作られています。訪れたときも店先ではゆっくりと石臼が回り、小麦を粉状に挽いていました。
一般的に使われている「ロール式製粉機」は一分間に200~500回転し、素早く小麦を粉砕するため、短時間にたくさんの小麦粉ができます。一方、一文字うどんの石臼製粉機は一分間に16回転。ゆっくりゆっくり挽くことで摩擦熱がほとんど発生せず、栄養や風味を生かした小麦粉に仕上がるのです。
どのように石臼挽きの小麦粉に行きついたのでしょう。1993年以降、「日本の伝統食であるうどんを国産小麦で作れないか?」と、さまざまなチャレンジを重ねてきた一文字うどん。うどんに合う国産小麦を探し、隣町で「しらさぎ小麦」を発見! けれど地場流通はしていない・・・「だったら自分たちの田んぼで育てよう!」と小麦の栽培をスタート。しらさぎ小麦はできたけれど、少量を製粉してくれる会社がない・・・「だったら自分たちで製粉しよう!」と石臼製粉機を導入したのです。
しかし、ここからが大変。できた小麦粉からうどんを打ってみてもブツブツきれるなど、うどんの姿にさえならなかったといいます。国産小麦は本来、グルテンが弱くちぎれやすいのだとか。あきらめそうになりながらも石臼の溝の形や回転数、配合などを調整し、6年もの歳月を経て、もっちりかつ滑らかな食感のうどんが実現しました。
現在は「しらさぎ小麦」と「ふくほのか小麦」の2種類を、地元農家さんに委託したものも含めて石臼製粉し、うどんに使っています。「小麦の違い食べ比べセット」というユニークなメニューも。
私が注文したのは、鴨南蛮うどん(しらさぎ小麦)と備前福岡の郷土料理どどめせ。どどめせは炊き込みご飯に酢を混ぜた炊き込み寿司で、具材がいろいろと入っており楽しかったです。
鴨南蛮うどんのこの鴨肉は、一文字うどんの田んぼで育った鴨なのだとか。一文字うどんでは1998年、しらさぎ小麦の無農薬栽培を実現するために、表作の米づくりを合鴨農法に変更。米・麦・大豆・ヒエ・キビなどを地元産の飼料として与え、「五穀鴨」として商標登録し、飼育しています。自然のなかでのびのびと育った五穀鴨は臭みがなく柔らかく、ぎゅっと旨みがあり美味しかったです。
うどんからも、小麦の香りと味がしっかりと感じられました。胚芽や表皮を含めて小麦一粒、丸ごと挽くため、ふつうのうどんよりも少し黒い色になっています。
セルフうどん1つ玉(小)230円~と気軽に食べられるメニューもあります。三代目店主・大倉剛生さんの「うどんは日常食。こだわりながらも独りよがりにならず、みんなが気軽に食べられる味を提供していきたい」という言葉から、創業時の「地元に根ざした店作り」は今も変わらないポリシーだと伝わってきます。

コーヒー専門店 USSU(岡山市)

ブランチ岡山北長瀬に2019年にオープンしたコーヒー専門店 USSU(うす)。コーヒーと相性抜群の石臼挽きのそば粉を使ったガレットと、岡山県産の小麦粉「ふくほのか」を使ったクレープが味わえます。
お店の奥に石臼の姿が見えました。運が良ければ、ゆっくりと回転しながらそば粉を挽いている様子を見ることができます。
USSUは瀬戸内市の焙煎所をかまえるコーヒー専門店、キノシタショウテンの系列店。メニューには地元産の食材を使い、ソースなども含めてできるだけ自家製で作ることにこだわっています。
挽きたてのそば粉を使ったガレットが提供できるよう、店に石臼を導入しているのです。
ゆっくりと丁寧に挽かれたそば粉は、豊かな香りが特徴のガレットに。ちなみにコーヒーも挽くスピードによって香りと味わいに変化が生まれるのだそうですよ。
8時~10時のモーニングメニュー「朝のスフレオムレツのガレット」(税込990円)を注文しました。スフレオムレツをガレット生地に包んでオーブンで焼き上げているそう。ふわふわのたまごと、パリパリとしたガレットの食感がたまりません。シンプルな味付けなので、ダイレクトにそばの風味が感じられました。
新鮮な野菜と自家製ハムも添えられています。
モーニング以外に、メニューには瀬戸内の魚のコンフィ(オイル煮)のガレットなどの食事系、シュガーバターなどスイーツ系もあります。地元食材の旬に合わせて発表される期間限定メニューも楽しみのひとつ。
生地はガレットかクレープを選ぶことができます。ちなみにクレープに使っている小麦粉「ふくほのか」は一文字うどんで石臼製粉されたものを使用しているそう。

石挽カカオ issai(矢掛町)

2019年に矢掛町にオープンした石挽カカオ issai(いっさい)は、カカオ豆からチョコレートができるまでの工程を一貫して製造する、チョコレートとカカオの専門店。カカオ豆は矢掛産白花崗岩の石臼で挽いています。
お店の外には矢掛産の石を使った椅子型のアートが! 休憩スポットとして設置されたそうです。
店内にも矢掛産の石が使われています。そこにガーナ、ペルー、コロンビアなど、カカオの産地別のチョコレートや、カカオニブ、ローストカカオなどがずらり。チョコレートの原材料はカカオ豆と和三盆のみで、100%自然のもので作るのがこだわりです。試食するとカカオの産地ごとに香りと味が全く違い、驚かされます。※カカオの種類は季節により異なるとのこと。
そんなissaiを運営するのはイシヤマユウエン合同会社。広島大学名誉教授で世界のチョコレート研究の第一人者、佐藤清隆さんから「カカオ豆を挽いてチョコレートを作る石臼を作れないか」という相談があったことが、issaiをオープンするきっかけだったそうです。
石臼を温めながら細かく摩砕できるカカオ豆用石臼「Chocolat Mill(ショコラミル)」の開発に携わる中で、挽きたてのカカオの香りと深い味わいに魅力を感じるように。カカオ本来の美味しさと矢掛産の石の魅力を伝える場所として2019年4月オープンしたのがissaiなのです。

かまぼこ 中光商店(瀬戸内市)

画像提供:中光商店
これまで石臼挽きの美味しいものを紹介しましたが、最後に紹介するのはお餅つきでおなじみの丸い石臼でつくる練り製品です。
瀬戸内市の牛窓町と邑久町にある中光商店は1951年創業のかまぼこ屋。創業時から昔ながらの伝統技術「石臼づくり」で練り製品に使うすり身をつくっているそう。石臼に刻んだ魚などの材料を入れて、回転する棒でかき混ぜてつぶしていきます。大きな会社は石臼を使わず大量生産で作っていきますが、石臼を使うことで繊維が細かくなりすぎず空気が入り、ふんわりとした食感になるそう。その日の気温や使う魚の種類によって微調整を行う職人技です。
すり身づくりは毎朝、牛窓町の店舗で行なわれています。
私は邑久町の中光商店 邑久駅前店を訪れました。
中には美味しそうな天ぷらがずらり、毎日20種類以上の創作練り天が並びます。
牛窓産の塩や地元産の野菜を使っているのも特徴です。
海老と青しその香り揚げ、濃厚チーズ天、今が旬のたまねぎ天(各税込160円)を食べてみました。ふわっとしたすり身に、それぞれの食材の香りがのってどれもとても美味しかったです。特にたまねぎ天のたまねぎは大ぶりでごろごろ入り、ジューシー。すり身とは違う食感に出会う楽しさがありました。
遠方の方はネットショップでの注文も可能です。
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