7年ぶりお披露目! 日本遺産の高梁市吹屋にある擬洋風建築「旧吹屋小学校」

標高約500mの高原上に忽然と出現する「赤い町並み」。日本遺産に認定された岡山県高梁市吹屋(ふきや)の町に2022年4月、新たな施設が開校! 現役最古の木造校舎といわれた吹屋小学校は閉校後、保存修理に7年の歳月をかけ「旧吹屋小学校」として一般公開されました。

懐かしさと新しさが共存した建物を巡ると、誰の心にもきっとある小学校の想い出が呼び起されるはず。ほかにない景観と歴史を訪ねる大人の学び旅に出かけてみませんか?
掲載日:2022年06月15日
  • ライター:小池香苗
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日本遺産に認定されている「高梁市吹屋」

高梁市吹屋一帯は2020年、『「ジャパンレッド」発祥の地-弁柄と銅の町・備中吹屋-』として日本遺産に認定されました。

標高500mの高原上に忽然と出現する「赤い町並み」。

日本遺産ストーリーに書かれたこの言葉に興味を持ち、訪れた吹屋には本当に言葉通りの町並みが広がっていました。険しい山道を縫ってたどり着いた先の、赤で統一された町を大人になって改めて見ると、ほかにない景観に心惹かれます。
ジャパンレッド? ベンガラ?
普段なじみのない言葉ですよね。

海外の人々がもつ日本のイメージカラーは圧倒的に「赤」といわれ、神社仏閣の赤、九谷焼・伊万里焼の陶磁器、輪島塗・山中塗の漆器の赤など、日本の伝統工芸に欠かせない色です。その赤色顔料、硫化鉄鉱石を原料とするベンガラ(弁柄)の製造法が偶然に吹屋で発見されて以来、吹屋生産のベンガラが全国に普及し、吹屋は「ジャパンレッド」発祥の地とされました。

繁栄した商人たちは、赤い瓦とベンガラ塗の格子で家々を飾り「赤い町並み」を形成。周辺の弁柄工場や銅山の跡とともに、吹屋の独特な景観は今も大切に保存されています。
今回訪れる「旧吹屋小学校」がある吹屋地区は、岡山県中西部、広島県境の高梁(たかはし)市にあります。市の中心部はかつて備中松山藩の城下町で、季節によって雲海も臨める山城の備中松山城で知られます。

吹屋に鉄道網はなく高梁市街から車でさらに1時間ほど北に進みますが、独特な景観と町の人々のあたたかさが人を惹きつけ、絶えず人々が訪れ、移住する人も増えてきたそう。
この春 公開された「旧吹屋小学校」は、見ておきたい場所として旅の目的地となりつつあり、吹屋に降り立つとあちこちにある案内に期待が高まります。
「旧吹屋小学校」は国選定の重要伝統的建造物群保存地区「吹屋の町並み」から歩いて5分ほどの場所にあります。小学校への道標に沿って弓なりの坂道を進むと、静けさの中に鳥のさえずりだけが響きます。「となりのトトロ」に出てくるようにのどかな通学路の先に、小学校が見えてきました。

2022年の旧吹屋小学校

2022年4月21日に「開校」した「旧吹屋小学校」です。学校正面の道路から、広大な敷地に佇む風格ある校舎全景を同じ目線で眺められます。左右対称が美しい……!

吹屋小学校は2012年に閉校するまで「現役最古の木造校舎」として使用されました。2015年から保存修理事業が始まり、7年もの歳月を経て2022年4月、吹屋の歴史や文化を発信する地域の新たな拠点として一般公開されました。

貴重な文化財建造物として将来に継承するため、校舎はなんと、一度すべて解体されたのだそう。当時の貴重な写真をお借りしました。

2012年の吹屋小学校

【写真提供:高梁市役所教育委員会】
2012年、閉校時の吹屋小学校です。再建された今と比べても全く変わらないように見え、7年をかけた保存修理技術の素晴らしさを改めて感じます。

吹屋小学校は1900(明治33)年に東西校舎、1909(明治42)年に本館が建築されました。設計は岡山県工師の江川三郎八。校舎はいずれも閉校まで大きな改築はされずそのままの形が残った貴重な建物で、明治後期を代表する擬洋風の学校建築として評価され、岡山県の重要文化財(建造物)に指定されました。
【写真提供:高梁市役所教育委員会】
保存修理の過程で、まさに校舎が全解体された時の貴重な1枚です。

建物を全解体し、地盤補強と建物の構造補強を施し再構築する保存修理事業についても本館に詳しい展示があり、建築関係者も多く訪れています。
吹屋一帯は江戸から明治にかけて国内有数の銅の産地でした。中でも吉岡銅山は江戸時代に大坂の泉屋(後の住友家)が経営に参画し、明治時代には岩崎弥太郎(三菱商会)が買収、後の鉱山経営の規範となる近代的経営を展開しました。

日本を代表する財閥が経営に関与した吉岡銅山は、近代産業遺産にも認定されました。三菱から吹屋村に寄附された吉岡銅山の本部跡地が、まさに今、小学校が建つ場所なのだそう。詳しい歴史は校内でじっくり学べます。

大正時代の玄関ポーチ

こちら本館の玄関ポーチは1926(大正15)年に新たに設置されました。現役時代をしのばせる風格ある玄関から、校内を巡っていきましょう。

本館の三間廊下

校内に入ると正面の三間廊下はロビーのように広く、新築のように綺麗です。本館と両側の東西校舎、三棟の建物が渡り廊下でコの字型に繋がった構造で、変形しにくいよう三角形から成る骨組み「トラス構造」の小屋組みで造られています。
吹屋の町にはいくつか三菱の遺構が遺され、往時を物語っています。小学校近くの銅栄寺から見つかった梵鐘が展示されており、ここには三菱のマークがみられます。 吹屋の山神社にも三菱マークを発見! 見つけると嬉しく、歴史がより身近に感じられます。

平成時代の教室

ここは2012年の閉校時を再現した教室です。ランドセルに地球儀、大きな三角定規など、小学校ゆかりのアイテムがたくさん。

講堂

本館2階中央の「講堂」。
こんなに広いのに柱がない空間が、2階に成り立つとは驚きです。柱のない空間とするためトラス構造を採用。周囲のカーブが美しい「二重折り上げ棹縁(さおぶち)天井」など、和洋折衷の意匠に明治の擬洋風建築の特徴がみられます。

百年オルガン

講堂には、学校創建時の1900(明治33)年に購入されたヤマハ製のオルガンが大切に保存されています。「百年オルガン」の愛称で親しまれ、今もきれいな音色が奏でられるそう。校歌も幾度となく演奏されたのでしょうね。年季の入った「吹屋子どもの歌」の楽譜がありました。

懐かしい教材の数々

講堂奥の部屋には、歴代の各教科の教材が飾られていました。楽器、実験道具、天体観測の望遠鏡、「先生の顔」を彫刻した卒業制作など様々。

「顕微鏡なつかしい!」「私の小学校にもあったわぁ」「この楽器、見たことない!」……あちこちで歓声があがり、それぞれの想い出話が飛び交っていました。私はここでリラという楽器を初めて見ました。家族3世代で行くと、いろんな時代の話が聴けそうですね。

閉校時の行事予定表

吹屋小学校が閉校となる2012年3月、1ヶ月間の行事予定表がそのままに。参観日、ワックスがけ、卒業式予行(5校時)、通知表提出……行事がびっしり。

2012年3月20日(火)卒業式・閉校式、と刻まれています。当時の様子を伝えていこうという皆さんの思いが伝わってきます。

明治時代の教室

東校舎には、明治時代の教室が復元されています。上げ下げ窓、当時は日常だったという2人掛けの机も忠実に再現。映画のワンシーンを観ているようでした。

最新の映像技術を体験!

ここでは最新技術で、日本遺産「ジャパンレッド」発祥の地を学ぶ体験もできます。XR(クロスリアリティ)という現実世界と仮想世界を融合させた映像技術で、旧吹屋小学校に吹屋の歴史が鮮やかに浮かび上がります。(レンタル1000円/1台)

プール

現役時代のプールは、飛び込み台や見学席はそのままに水辺を散策できる素敵な場所になっていました。先出の閉校時の写真と見比べてみてください。本館2階からプールを見る生徒目線で撮影しました。
旧吹屋小学校、とても見応えがありました。

吹屋の歴史を通して大人にとっても大切なことを教わり、何度訪れても発見がある学びの宝庫だと思いました。あるひとつの町の歴史から、近代日本のあゆみまで思いを馳せることができました。豊かな自然に囲まれた環境、美しい吹屋にある素敵な場所。こんな学校、通ってみたい!

一般公開となり、旧吹屋小学校はすべての世代に向けての学校になったように感じます。吹屋の町と旧吹屋小学校のこれからがとても楽しみです。

「旧吹屋小学校」概要

【開校時間】10:00~16:00
【休校日】12月29日~1月3日
【入館料】大人500円、小中学生250円

入館券の裏面は粋な入校記念証になっていました。嬉しい♪

吹屋へのアクセス

【車】
岡山市中心部から高速道路利用で1時間20分前後
※JR備中高梁駅からは車で国道180号~県道85号経由 50分前後
旧吹屋小学校に一般駐車場はないため「吹屋ふるさと村」入口の下町観光駐車場に停めて、歩いて「登校」しましょう♪

【公共交通】
JR伯備線 備中高梁駅下車~
備北バス吹屋行き「高梁バスセンター」~「吹屋」約1時間
※吹屋行きバスは1日3本
事前に調べて行くのがおすすめです。
岡山駅~備中高梁駅間は、ゆっくり伯備線で行くのもいいですが、速くて便利な特急やくもに乗るのも楽しいですよ♪
 
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