山城ガールむつみさんと行く!井原鉄道沿線の城
岡山県総社市の「総社駅」から広島県福山市の「神辺駅」まで、41.7kmを結ぶ井原鉄道・井原線。実は井原線沿線は、古代から現代まで、さまざまな時代の物語が積み重なった“歴史の宝庫”。山陽道と小田川が通る交通の要衝だったことから、人や物が行き交い、脈々と歴史が育まれてきた魅力あふれるエリアなのです。
今回は、山城ガールむつみさんが、『太平記』に描かれた戦いの舞台「福山城」、備中高松城の戦いで毛利輝元の本陣になった「猿掛城」、北条早雲生誕の城とも伝わる「高越城」、備後国の要「神辺城」をご紹介。その土地に眠る物語をひもとけば、旅の景色がぐっと鮮やかになるはずです。
目次
今回の旅のテーマは「城」
城と聞くと、立派な天守閣を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、全国に数万と存在する城の多くは、山の地形を巧みに利用して築かれた「山城」です。おもに南北朝時代から戦国時代にかけて、街道や河川を押さえる要所に築かれ、地域の拠点として重要な役目を果たしました。建物が残っていなくても、地形に刻まれた痕跡が当時の状況や人々の営みを今に伝えてくれます。井原線沿線には、そんな歴史ロマンを感じることができる山城がいくつも点在しています。
1.福山城~南北朝時代「福山合戦」の舞台~
標高302mの福山は複数のハイキングルートが整備され、晴れた日にはたくさんの登山客でにぎわう人気の山です。美しい景色が楽しめるこの山は、じつは南北朝時代に熾烈な戦いの舞台となった城跡なのです。
後醍醐天皇と対立し、京を追われ九州に落ち延びた足利尊氏は勢力を立て直して、弟・足利直義とともに再び京を目指します。その行く手を阻むため、足利軍の前に立ちはだかった後醍醐天皇方の武将・大井田氏経が、立てこもったのがここ福山城です。
数十万騎とも伝わる足利軍に対し、大井田軍はわずか1500騎――この三日三晩続いたと伝わる「福山合戦」は、南北朝時代を代表する合戦として『太平記』にも描かれています。
- 福山合戦に勝利した足利尊氏は、このわずか七日後、湊川の戦いで楠木正成を討ち、京へと上ります。やがて室町幕府を開くことになる尊氏の進軍の中で、福山城はまさに時代の大きな転換点を彩った舞台でした。そんな歴史を思い浮かべながら福山を歩くと、山頂からの美しい風景が一段と胸に響き、感動をおぼえます。

ひとあし伸ばして「幸山城」「備中国分寺」へ
福山の山頂から北へ延びる尾根筋に幸山城が築かれています。幸山城は、鎌倉時代には庄氏の城で、室町時代以降は細川氏、三村氏、毛利氏、宇喜多氏などの城になり、目まぐるしく城主が移り変わりました。山陽道と高梁川が一望できる眺めは素晴らしく、国分寺など古代からの重要な史跡も見渡せて、この地がいかに大切な場所だったかを実感します。
2.猿掛城~毛利輝元の本陣になった城~
山陽道と小田川を望む標高約240mの丘陵に築かれた猿掛城は、鎌倉時代に庄家長によって築かれたと伝わります。その後、庄氏は備中国を代表する勢力へと成長し、毛利氏や三村氏との戦いを繰り広げるなかで、ここ猿掛城もたびたび戦いの舞台となりました。最終的には毛利氏の城となり、豊臣秀吉による「備中高松城の水攻め」の際には、なんと毛利輝元の本陣が置かれたとても重要な城なのです。
このような戦国の乱世を物語る猿掛城には、当時の緊張感を今に伝える遺構が色濃く残っていて、歩くだけで歴史の息づかいが感じられる、ワクワクする山城です。敵の侵入を防ぐため、尾根を断ち切った堀切や、土を盛った土塁などの遺構は圧巻で、戦国の気配を感じられる素晴らしい城跡です。
- 毛利氏の城となった猿掛城には、毛利元就の4男・毛利元清が入りました。元清は、やがて西に位置する茶臼山に城を築いて移り、猿掛城はその役目を終えました。庄氏から毛利氏へと城主を変え、戦国の世の大局にも関わった猿掛城は、岡山県の歴史を語るうえで欠かせない存在です。

ひとあし伸ばして「洞松寺」「茶臼山城」へ
猿掛城を築いた庄氏は、武蔵国児玉郡(埼玉県本庄市)を本拠とする鎌倉幕府の御家人です。戦いの武功によって、備中国の地頭としてこの地に入りました。その庄氏の菩提寺が、猿掛城の南西にある洞松寺です。境内には、庄元資の墓と伝わる供養塔が静かに佇んでいます。
猿掛城と茶臼山城、そして江戸時代に栄えた矢掛宿をあわせてめぐれば、鎌倉・室町戦国・江戸と、時代の移り変わりを楽しむことができます。
3.高越城~北条早雲生誕の城!~
高越城のはじまりは、鎌倉時代の「元寇」のときに、国防のために九州へ向かう下野国の有力御家人・宇都宮貞綱が山陽道の抑えとして築いたと伝わります。
その後、15世紀中ごろには備中伊勢氏の当主・伊勢盛定が居城とし、その子・北条早雲(伊勢盛時)がこの城で生まれたともいわれています。のちに早雲は、京、駿河、伊豆へと舞台を移し、関東の戦国時代に華々しく登場しますが、彼が去った後も、高越城は備中伊勢氏の居城として、地域の重要拠点としての役目を担いました。その後、備中伊勢氏が毛利氏の配下に入ると、高越城も毛利方の城になったようです。
- 北条早雲生誕の地と伝わる高越城の眼下には、ただ美しいだけではなく、歴史に想いを馳せるにふさわしい絶景が広がっています。早雲は、室町将軍の側近として活躍し、西と東の政治に大きく関わり、文字通り東奔西走しながら戦国の黎明期に鮮やかな足跡を残しました。
高越城の本丸に立つと、若き早雲もこの景色を眺めたのだろうか、どのような思いでここに立ったのだろうか――そんな想像が胸に湧き上がります。戦国時代の魁ともいえる早雲の原点が、ここにあったのだと思うと、風景そのものが歴史絵巻の一場面のように見えてきます。 
ひとあし伸ばして「出城」「法泉寺」へ
高越城の山頂部から南西へと延びる尾根には山上山城、南東へと延びる尾根には横畑城というふたつの出城が連なり、まるで本城を守る翼のように広がっています。高越城の前線を支え、物見として周囲を監視したと思われます。ぜひ出城まで足を伸ばして、高越城の規模を感じてください。
また、法泉寺は伊勢盛定が創建した備中伊勢氏の菩提寺で、若き早雲も学んだと伝わるゆかりの寺です。早雲が発給した制札などの貴重な文化財も寺に伝わっています。
4.神辺城~備後国の要の城~
神辺城は、井原鉄道「神辺駅」(広島県福山市)の東口ロータリーの目の前にそびえる標高133mの黄葉山に築かれた山城です。戦国時代、神辺城の山名氏が大内・毛利連合軍に攻められ、「神辺合戦」と呼ばれる戦いの舞台になりました。神辺合戦は、なんと6年にわたって繰り広げられ、神辺城下の「固屋口」「七日市」などで激しい戦いが起きたことが伝わっています。
最終的にこの戦いは大内・毛利方が勝利し、神辺城は毛利方の城になるも、今度は、山名氏の旧臣藤井皓玄(こうげん)が奪還を目指し、神辺城に攻めかかってくるのです。いったんは、神辺城を取り返した皓玄でしたが、またすぐに毛利氏に奪い返され、自身は浅口郡(笠岡市周辺)で自害したといいます。以降、神辺城は毛利方の城となり、備後国の要として整備されました。
- 関ヶ原の戦い後、安芸・備後を拝領した福島正則が神辺城に代官を派遣し、大規模に城が整備されました。しかし、一国一城令によって神辺城は取り壊され、備後国の中心は福山城(広島県福山市)に移っていきました。時代の流れの中で中世城郭から近世城郭へと姿を変えていった神辺城は、歴史の転換期を象徴する貴重な史跡といえます。このような歴史を物語る堀切や、竪堀、さらには石垣などの遺構が現地に良好に残っています。隣接する神辺歴史民俗資料館もあわせて見学するのがおすすめです。

ひとあし伸ばして「天別豊姫神社」「福山城」へ
神辺城の城下には山陽道が通り、瀬戸内海へつながる要所だったことから、古くから発展した土地でした。式内社・天別豊姫神社が鎮座することからも、この地が古代より重要な地域であったことがうかがえます。また、城下の街道には往時の雰囲気が今も残り、山陽道の宿駅として栄え、旅人が疲れを癒す拠点となっていた面影が随所に感じられます。
一国一城令によって神辺城が取り壊されたのち、備後国の中心として築かれた福山城(広島県福山市)もあわせて訪れると、地域の歴史がより立体的に見えてきます。
まとめ
井原鉄道に揺られ、車窓の景色を眺めていると、目に入る山という山が城であることに驚きます。山陽道と小田川に沿って走る井原鉄道は、まさに歴史の道筋そのもの。さらに、井原鉄道沿線エリアで活躍した武家の家紋や、北条早雲の姿をラッピングした「戦国列車」に乗れば、気分はさらに高まります。歴史ロマンをまとった車両に揺られながら、沿線の山城を訪ねると、まるで時間を旅しているような感覚に。気軽な気持ちで、沿線の城をめぐる歴史の旅へ出かけてみましょう。冒険気分で城を歩き、歴史を楽しんでください。
★もっと詳しい歴史を知りたい方は、「井原鉄道沿線の山城出陣のススメ」をダウンロードして、お楽しみください。
むつみさんプロフィール
山城ガールむつみ
歴史&山城ナビゲーター。歴×トキ(レキトキ)代表、那珂川町ふるさと大使、三浦一族研究会副会長、一般社団法人城組副代表などを務める。
歴史や城をテーマにしたイベントやツアー、講演講座を多数手がけ、執筆業、ガイド業、御城印のプロデュースなどを行うほか、歴史と城を生かした町おこし、地域活性化にも取り組んでいる。

紹介したスポットの場所(地図)
- 福山城跡
- 幸山城跡
- 備中国分寺
- 猿掛城跡
- 洞松寺
- 茶臼山城
- 高越城址公園
- 神辺城
- 天別豊姫神社
- 福山城
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