【岡山の酒蔵探訪】岡山発祥・幻の酒米「雄町」で醸す日本酒 Vol.2
日本酒好きのライターが独断で気になる酒蔵を訪ねて話を伺う【酒蔵探訪】の第二弾。
岡山がルーツで「岡山の宝」でもある、かつて「幻の酒米」と呼ばれていた「雄町(おまち)」。「オマチスト」と呼ばれる熱狂的なファンも多く、全国で多くの酒蔵が醸している「雄町」は、そのほとんどが岡山産です。今回も岡山県内の酒蔵を訪ねて、「雄町」と「雄町で醸す酒」への想いを杜氏に取材しました。
- ライター
- イマオカ マコト
- 掲載日
- 2026年3月24日
目次
「雄町」について酒蔵で聞くシリーズ
前回、岡山県内の酒蔵を4軒を訪ねて「雄町」の酒造りについて聞いてきました。
岡山には多くの酒蔵があるので、もっと「雄町」について知りたいと思い、酒蔵探訪第二弾として今回は2軒の蔵を訪ねてきました。
※第一弾『【岡山の酒蔵探訪】岡山発祥・幻の酒米「雄町」で醸す日本酒 Vol.1』もぜひお読みください。
【探訪①】倉敷市|十八盛酒造(じゅうはちざかりしゅぞう)
岡山県倉敷市児島、海のそばにある十八盛酒造株式会社は天明5年(1785年)創業の酒蔵で、眼前に広がる瀬戸内海の魚介類に合う旨味のあるお酒を造っています。
日本酒を「水・米・菌・人の力が合わさった自然の賜物」と捉え、五感を研ぎ澄ませて日本酒を醸すことを大切にしており、岡山県産の米にこだわり「雄町」がほぼ生育されていなかった時代にも「雄町の酒」を作り続けていました。
「雄町」を含めたすべての酒米に深い愛情を傾けています。
「雄町」とは当たり前の付き合い
「“雄町”は、栽培が少なかった頃からずっと使ってるんですよ」と、八代目の当主で杜氏でもある社長の石合(いしあい)敬三さん。
現在では全国で多くの酒蔵が使う人気の酒米「雄町」。以前は栽培量も少なく扱う蔵も限られていましたが、 十八盛酒造ではそんな頃から雄町を使った酒造りを続けてきたそうです。
栽培が難しく一時は幻となりかけた「雄町」は決して安価ではないものの、「先代である父が“いい米で酒を造る”という人で、原価よりも米の質を大事にしていました」と石合社長。
「雄町だから」と特別扱いせず、どの酒米も同じように大事にしてきたことが伝わり、流行にとらわれない米と農家への敬意は、生産者からの信頼の厚さを感じ取ることができます。
とはいえ「雄町」は個性的
「“同じように”と言っても、やっぱり“雄町”は癖のある米なんですよ。でも、その癖が特徴としてちゃんと出る」「味は面白いけれど、扱いやすい米ではない」と石合社長。
野生的で荒々しいかと思えばデリケートで酷暑にも弱く、その年の気候によって出来はバラバラで、洗米時に少しでも気を抜けば割れてしまう気難しい米。
「山田錦のような整った酒質とは少し違い、旨味やコクがはっきり出るので個性が表れやすい」、「その個性を手なずけた先にこそ、他の米には出せない複雑で重層的な旨味が立ち現れ、それが飲み手の記憶に刻まれる魅力になっている」と話します。
酒造りの基本は「麹」
十八盛酒造では、日本酒の世界で言われる「一麹、二酛、三造り」を忠実に守り、特に蒸し米の水分や温度管理により、酵素の働きをコントロールする麹造りには全神経を注いでいるとのこと。
石合社長は「蒸し米の状態や麹の温度管理など、基本の工程を丁寧に積み重ねることが酒質の向上につながる」と話します。
瓶詰めについては、一切の加水やろ過を行わず、搾りたてのガス感ごと瓶に封じ込める「直汲み(じかぐみ)」も実践しており、慎重かつ丁寧に醸された酒が生命力あふれたまま製品となっています。
代表銘柄と社名の「十八盛」という名前についても尋ねたところ、五代目当主の石合多賀治(たかじ)さんが「娘十八、番茶も出花」という言葉に由来して、純粋で艶やかな酒を目指して代表銘柄として命名、その名を先代・七代目当主の石合多喜夫(たきお)さんが社名としたとのことです。
五代目当主の名を冠した「多賀治(たかじ)」
2012年、自らが酒造りの陣頭指揮を執る「社長兼杜氏」の道を選んだ石合社長 。最初は失敗の連続でしたが、「自分でやるからこそ、何が必要なのか見えてくる」と、一歩ずつ理想の味を追求してきたそうです。
もう少し「雄町」の酒の特徴について尋ねたところ、「独特のふくらみや骨太な旨味があり、しっかりとした酸も感じられる」。そんな味わいになることが多いそうです。
社長曰く「軽いタイプの酒を好む人には少し個性的に感じるかもしれませんが、雄町の酒を好きな人にはその厚みが魅力になりますね」。
おすすめの銘柄について伺うと「代表銘柄の“十八盛”もおすすめだけど、“多賀治(たかじ)”の純米雄町無濾過生原酒」とのこと。こちらは搾られたそのままを瓶詰めした、雄町の旨みとともにキレがある純米酒です。この「多賀治」という銘柄は、五代目当主・石合多賀治さんの功績にあやかって名前を冠しています。
海から由加山へと続く道
十八盛酒造は、江戸時代に香川県の金比羅山(こんぴらさん)との両参りで賑わった由加山(ゆがさん)の参道沿いにあります。「多くの人が行き交う場所には自然とお酒が求められたんでしょうね」と石合社長。
蔵には直売スペースもありますので、こちらで蔵の雰囲気に酔いしれるのもいいですね。「多賀治」は、酒販店専売の銘柄となりますので、酒屋等の販売店でお求めください。
児島から玉野市の渋川海岸に続く国道430号(王子マリンロード)沿いでもある十八盛酒造は、天気のよい日には水平線に浮かぶ瀬戸大橋を望む海岸線をドライブ、ツーリング、サイクリングにもオススメです。
【十八盛酒造】
所在地:岡山県倉敷市児島田の口5-6-14
TEL:086-477-7125
営業時間:9:00〜17:00(蔵内販売所)
定休日:土・日曜日、祝日、盆、年末年始、その他会社の定める日
駐車場:あり(国道430号沿い)※参道側には駐車できません
公式Instagramはこちら
【探訪②】真庭市|落酒造場(おちしゅぞうじょう)
岡山県真庭市北房。ホタル鑑賞の名所でも知られる地にあるのが「大正の鶴」を代表銘柄とする、明治26年(1893年)創業の株式会社落酒造場です。
「岡山は軟水の酒」と言ってもいいほど、県内のほとんどの酒蔵では仕込み水に「軟水」が使われていますが、こちらは「硬水」で酒を醸しているのが大きな特徴です。
周りに洞窟が多く、石灰分を含む「中硬水」で真摯に酒造りに取り組んでいる落酒造場では、「雄町」での仕込みも積極的におこなわれています。
「雄町」に挑戦しなきゃいけない
落酒造場では長く、「雄町」と同じく岡山がルーツの米「朝日」を使った酒造りを続けています。
「朝日も岡山を代表する米で、食事に合わせやすい酒を造りやすいんですよ」と話すのは、株式会社落酒造場の五代目当主で杜氏の落昇(おちのぼる)社長。
醸造家として「雄町」への想いはあったものの、扱いの難しさから当初は手を出せずにいましたが、製造責任者から杜氏へと蔵の酒造りを担う立場となるにつれ、「酒を造る以上、“雄町”には挑戦しなきゃいけない」という思いが強くなり経験を積み重ねて、2016年頃から本格的に取り組みを開始したのだそうです。
「十人十酒」、それが雄町
落社長は「雄町の酒は、十人が造れば十通り」という表現をします。
「米質が柔らかく吸水も早い。そのため扱い方によって酒の仕上がりが変わるので、その分、造り手の考え方や技術が酒に表れやすい米ですね」と。麹の段階から「朝日とは明らかに違う」と、この時点で仕上がりに大きな可能性を実感するそうです。
「難しい米ではあるけど味わいの幅も出る」、と楽しそうに熱く話すのも印象的です。「好きだから」はもちろん、「徹底的に向き合ってやらないと気が済まない」というこだわりを感じます。
選ばれた環境「中硬水」
落酒造場の大きな特徴は「中硬水」。カルスト地形から流れ出るミネラル分が豊富に含まれた蔵内の井戸水で仕込んでいます。酒造りについて落社長は「香りより味わい」と話し「北房の中硬水で仕込むと、発酵がしっかり進み、酒にしっかりとした骨格が出るんです」。続けて「開封して寝かせても味がまとまっていくんですね。中硬水ならではの時間をかけた変化も楽しんでほしい」と教えてくれました。
さらに「うちの酒は燗が美味しいんですよ、地酒というと冷酒や常温のイメージがありますが、ぜひ」とのこと。
前回の【岡山の酒蔵探訪】Vol.1で紹介した、同じ真庭市にある「辻本店」と仕込み水を交換して醸造するという試みをしたときには、「軟水」との違いを如実に感じるとともに「中硬水」ならではの特長と酒造りの奥深さや面白さをあらためて実感したそうです。
米を感じるなら「純米酒」
代表銘柄「大正の鶴」を命名したのは三代目当主の落実さんで「はっきりした由来は残っていなくて、三代目が生まれたのが大正元年、その時代に酒蔵としての形になったことに由来しているのではないか」とのこと。
北房は鶴の飛来する場所ではなく「縁起かつぎで“鶴”とつけたのか、家系を支えた聡明で非常にユニークな“ツルノさん”という女性がいたので、もしかしたらそこから取ったのかもしれませんね」と笑って話します。
おすすめの銘柄はミネラル成分の湧き出る水の歴史に重ねた「百万年の一滴」。昔ながらの醸造法「生酛(きもと)づくり」の意欲作です。「天然の乳酸菌を育てて発酵させるので、かなり手間はかかるけど、ここの水に合う」と取り組んでいます。「純米酒は磨きが多くない分、米の味わいと蔵の個性がよく出るのでしっかり感じてください」と落社長。
ホタルが集まる、綺麗な水
北房は山に囲まれ近隣に洞窟も多く、落酒造場はもしかしたら日本で一番鍾乳洞に近い酒蔵かもしれません。周辺に古墳も多く、古くから人が暮らしてきた痕跡もあります。
「冬は冷え込みも強くて、酒造りには向いた環境」だと落社長は話します。優しくも個性的な酒は、環境や中硬水はもちろん、落酒造場の人たちの人柄が表れているようにも感じます。
蔵での直売も行っていますが、今回おすすめの「百万年の一滴」は酒販店専売商品のため、酒屋等の販売店でお求めください。
北房エリアは日本有数のホタルの里で、落酒造場のある下呰部(しもあざえ)の風情ある通りのそばを流れる備中川の広範囲で鑑賞を楽しめます。秋に咲き誇るコスモスもオススメですよ。
【落酒造場】
所在地:岡山県真庭市下呰部664-4
TEL:0866-52-2311
営業時間:9:00〜18:00(直売所)
定休日:火曜日、盆、年末年始、その他会社の定める日
駐車場:里山里海交流館しんぴお、北房ふるさとセンターに駐車してください
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雄町の酒はここで購入|ワインと地酒 武田 倉敷田ノ上店
岡山・倉敷に3店舗を展開している「ワインと地酒 武田」。今回は倉敷田ノ上店で購入しました。店内に入ると、日本酒・焼酎・ワイン・ビール等の世界が迎えてくれます。ノンアルや厳選した食品も充実しています。
日本酒コーナーには入って左手の奥。岡山県内はもちろん、全国の地酒が充実しています。
店舗もとてもわかりやすい場所にあり、駐車場も店舗両側に完備されています。
【ワインと地酒 武田 倉敷田ノ上店】
所在地:岡山県倉敷市田ノ上1097-2
TEL:086-423-6566
営業時間:10:00~20:00
定休日:1月1日~3日
※岡山新保店、岡山幸町店の情報は公式サイトをご確認ください。
公式Instagramはこちら
やはり「雄町」は岡山と酒蔵の宝
今回は、2つの蔵を巡り「雄町」の米とお酒、それぞれの蔵でのきっかけや向き合い方を聞きました。
両蔵とも杜氏は経営者でもあり、酒を醸す職人と日本酒と業界の未来を考える経営者の立場での話が印象的でした。仕込みの真っ最中に快く対応してくださった懐の深さに感謝しながら、雄町とお酒のことを嬉しそうに話すその顔が印象的で、さらに「雄町」は岡山の宝だと実感しました。
岡山県は「雄町」と「朝日」という米の原産地、3本の一級河川の流れる水に恵まれた場所で40軒を超える酒蔵があります。観光や仕事などで岡山に来られる方、ぜひ岡山の地酒を飲めるお店で「雄町の酒」をはじめ、岡山の酒を楽しんでください。
紹介したスポットの場所(地図)
- 十八盛酒造
- 落酒造場
- ワインと地酒 武田 倉敷田ノ上店
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