【倉敷美観地区】大原美術館の「受胎告知」66年ぶりに修復!エル・グレコの色彩が甦る
こんにちは!月子です。私が思う岡山の素晴らしいもののひとつ、エル・グレコの「受胎告知」。世界史の教科書や資料集で見たことがある方も多いのではないでしょうか。教科書で見たときは「ずいぶん縦に伸びた絵だな…」と思っていたのですが、初めて訪れた際、実物の美しさに衝撃を受け、しばらく動くことができませんでした。そんな「受胎告知」がこの夏、66年ぶりに修復が行われ、当初の姿に近づきました。今回はこの生まれ変わった「受胎告知」についてご紹介します。
- ライター
- 月子
- 掲載日
- 2025年10月25日
目次
大原美術館とは
岡山県倉敷市にある大原美術館は、倉敷の名家である大原家の七代目・大原孫三郎氏により1930(昭和5)年に設立されました。日本で初めて西洋美術を中心に収集・展示した私立美術館として知られています。
「受胎告知」とは
その大原美術館に所蔵されているのが、今回ご紹介する「受胎告知」。「受胎告知」とは、新約聖書の最初の重要なテーマです。「ルカによる福音書」に記された、聖母マリアが大天使ガブリエルからイエスを身ごもったことを告げられるというシーンです。「受胎告知」は、旧約聖書から新約聖書への扉となる最初のテーマです。キリスト教美術では、磔刑と並ぶ最も重要な主題のひとつとされています。
宗教画に込められた意味
宗教画は、描かれているモチーフに様々な意味があります。この「受胎告知」で見られるものとしては、鳩は聖霊、百合は純潔を表します。また、聖母マリアの衣の色も、赤は神の慈愛、人間性などを、青は天の真実や信仰、純潔などを象徴します。宗教画で「この女性、誰だろう?」と思った時、赤と青を纏っていたら「きっと聖母マリアだな」と理解できます。このような約束事を知っていると、また違った見方ができて面白いですよ。
エル・グレコとは
レオナルド・ダ・ヴィンチやボッティチェリなど、多くの画家が描いた「受胎告知」。大原美術館所蔵の「受胎告知」はエル・グレコによる作品です。エル・グレコはイタリアで修業し、その後スペイン(トレド)で活躍した画家です。ちなみにエル・グレコは本名ではありません。「ザ・ギリシャ人」という意味の愛称であり、本名はドメニコス・テオトコプーロスといいます。1590年頃〜1603年頃に描いたといわれています。
左右が逆の「受胎告知」
通常、向かって右側に聖母マリア、左側に大天使ガブリエルが描かれるといわれています。しかし、エル・グレコによる「受胎告知」は、古典的な形式の位置とは逆となっています。マニエリスムがひねりを特徴とするからという説もありますが、どうやら左右が逆の「受胎告知」は他にも存在するようです。それは設置場所等の事情により、より一層効果的に見えるように意図して描かれたということも考えられます。この「受胎告知」は当初の設置場所が不明ですが、そのような経緯があったのかもしれません。
修復のきっかけと必要性
「受胎告知」は長年の展示により、表面の劣化が進んでいました。そうした中、大原芸術財団 研究部 孝岡睦子部長がシカゴのエル・グレコ作品を見た際に「色彩が違う」と気づいたことが、修復を考えるきっかけの一つとなりました。これとは別に、2019年頃の科学的調査でも、どうやらエル・グレコ本人が描いたものとは少し違っているらしいということが判明したのです。そして2026年のクラレグループ100周年に向けた記念事業として、2025年7月より一般財団法人クラレ財団の助成を受け、修復が始まったのです。
2025年7月中旬から修復が始まり、8月上旬に修復が終わりました。手掛けたのはプラド美術館の絵画修復士エバ・マルティネスさんです。その後、作品の安定のために室温や湿度が安定した暗所で保管され、ついに10月21日に公開されたのです。
修復の方法
修復は、まず汚れや絵画を保護するために塗られていたワニスを除去することから始まります。その後、描き換えられたり重ねられた余計な部分や、過去の補修で使われた充填剤を除去します。次は、足していく作業です。剥落した部分に充填剤を詰め、ワニスを塗り、新しく色を塗っていきます。最後にまた新たにワニスを塗って保護をして修復完了です。
修復によって当初の姿に!
修復によって、作品は当初の姿を取り戻しました。エル・グレコは、カンヴァスの上に赤みがかった下地をまず塗り、その上に透明度の高い油絵具を重ねていました。すべてを塗りつぶすのではなく、その下地を意図的に露出させ、奥行きなどを表現していたのです。ところが、後世の修復の際に、その部分が塗りつぶされていたのです。今回の修復では、そういった部分を下地が見えるようにし、当初の姿が見られるようになりました。ガブリエルの羽の部分が顕著にわかる部分です。
布の形が変わった!
大きな変化は、左下にある布の大きさや形状です。修復前の布(写真)はエル・グレコが描いた時よりも大きく垂れ下がっていました。しかし、紫外線による科学調査によって実際の大きさは違っていたことが判明したのです。
描き換えられている部分の除去
修復中のバスケットと布の部分です。描き換えられている部分が除去されました。
修復後の布部分はこちら!
このように、修復によって本来の姿を取り戻しました。以前とは形状が変わっていますね。ちなみに、このバスケットと布。「受胎告知」のシーンではマリアは読書をしたり針仕事をしたりしていたとされます。そのため、針仕事の布やハサミが描かれているのです。
歴史を尊重して残した部分も
なんと、後世に描き加えられたけれど当初の姿に戻さなかった部分もあるのです。それは、マリアの頭上の天使の輪のような12の星の冠。これは「聖母の無原罪の御宿り」という教義を表すモチーフであるため、「受胎告知」というテーマでは描かれないそうです。また、エル・グレコの他の「受胎告知」には描かれていないため、当初はなかったと考えられます。しかし、日本でずっと親しまれてきたという歴史があることも踏まえ、現時点では除去しないことに決めたそうです。修復するというのは非常に複雑な研究や判断があるのですね。
研究員・大塚さんのコメント
詳しく解説してくださった研究員の大塚さんは、「修復終了し、皆様に見ていただけることを嬉しく思っています。修復前は陰影が濃い状態でしたが、滑らかな光のつながりとなりました。今はもう見られない修復前と修復中の「受胎告知」を高精細レプリカで、修復後の実物と比較してご覧いただけるのは、大原美術館だけです。ぜひ修復後初公開の「受胎告知」を見にいらして、楽しんでいただけたらと思います。」と仰っていました。
ミュージアムショップにも立ち寄ろう
ミュージアムショップでは、大原美術館に所蔵されている絵画のグッズを入手できます。大原美術館入口前の通りから入ることもできますし、東洋館の方から入ることもできます。
エル・グレコの「受胎告知」グッズも、しおりやアクリルマグネット、クリアファイルなど色々な種類が販売されています。今はまだ修復前の「受胎告知」の絵柄が販売されていますので、見られなくなってしまった修復前のグッズは今後レアなアイテムになるかもしれません。
展示スケジュール
修復を終えた『受胎告知』は、現在プレ再展示として12月21日まで公開されています。正式な再展示は、2026年4月以降に予定されています。ぜひ、修復後初公開のこのタイミングに足を運んでくださいね!
所在地・交通アクセス
所在地:岡山県倉敷市中央1-1-15
【車でのアクセス】
山陽自動車道倉敷ICまたは、瀬戸中央自動車道早島ICから約20分
【公共交通機関でのアクセス】
JR倉敷駅から徒歩約15分
営業時間・料金
営業時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
※12~2月は15:00まで(最終入館14:30)
休業日:月曜日(祝日の場合は開館)、年末
※7月下旬~8月は無休
※元旦は本館のみ開館
※2026年2月9日(月)~4月24日(金)改修工事のため長期休館の予定
入館料:大人 2,000円、小・中・高校生(18歳未満) 500円、小学生未満は無料
おわりに
現代の科学による分析、細心の注意を払った修復、修復士の方の持つ技術の素晴らしさ。そして、400年前のものを後世につないでいこうという、関わった人たちの思い。そのすべてが、この一枚の絵に込められています。この生まれ変わった「受胎告知」、ぜひ実物を見てその力を感じてください。
紹介したスポットの場所(地図)
- 大原美術館
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