戦時中に岡山県へ疎開していた著名人ゆかりの地を訪ねて(真庭市・倉敷市・浅口市・総社市)
太平洋戦争の末期、戦禍を逃れるため親族を頼って岡山県内に疎開していた著名人たちがいました。そのゆかりの地を訪ねます。
- ライター
- 田中シンペイ
- 掲載日
- 2025年11月28日
谷崎潤一郎(真庭市勝山)
真庭市の勝山は、出雲街道の宿場町や高瀬舟の川港として栄えた城下町で、白壁の土蔵や格子窓の商家が連なる「勝山町並み保存地区」が有名です。この地に昭和を代表する文豪・谷崎潤一郎が疎開していました。義理の妹が旧津山藩主の松平家に嫁いでいた縁で、はじめは津山へ行き、直後に勝山へ移りました。1945年7月から翌年の春頃まで勝山に滞在し、代表作となる長編小説『細雪』の一部はこの地で執筆されたと言われています。
勝山が小京都と呼ばれていることについて「町としては比べるべくもないが川の風景には京都の面影が感じられる」という趣旨のことを書き残しています。早朝の散歩を日課としていたことや近所の人々との交流など、滞在中のさまざまなエピソードが知られています。
1945年8月13日には岡山市内に疎開していた作家・永井荷風を勝山に招いて、当時としては大変貴重な食材である牛肉を津山から入手して酒宴を開いたという逸話も残されています。これは東京大空襲で焼け出され、疎開先の岡山市でも再び空襲で焼け出された永井を励ますためだったと言われています。8月15日には岡山市へ戻る永井を勝山駅まで見送った後、ラジオで玉音放送を聞いたそうです。
勝山郷土資料館にはゆかりの品々が展示されているほか「文豪 谷崎潤一郎 疎開の地」と記された石碑も建立されています。勝山観光の詳細については過去の記事をご参照いただき、当記事では個人的なおすすめスポットをひとつご紹介しておきたいと思います。
旭川にかかる神橋のたもとにある「岡野屋」は明治時代末期に建てられた旅館です。現在は営業されていないため内部は非公開ですが、撮影やイベント等に使用されており、内部が公開されることもあります。非常に趣のある建物で、川面へせり出すようにして建つ姿はとても絵になります。2021年の映画『燃えよ剣』では、岡田准一さん演じる土方歳三が岡田以蔵と遭遇する印象的な場面で使用されました。川辺の風景が京都に似ていることもあって、見事に作品の世界観を体現した迫力あるシーンになっていました。他にも岡山県内各地の歴史スポットでロケが行なわれていて、原作の再現度も高いので、歴史好きの方にはかなりおすすめの映画だと思います。
横溝正史(倉敷市真備町)
金田一耕助シリーズの生みの親である推理小説作家・横溝正史は祖父が船穂町の出身で、親類の紹介で真備町に疎開していました。1945年4月から約3年間この家に住んで執筆活動を行ない、1946年にはシリーズ1作目となる『本陣殺人事件』を発表しています。
「横溝正史疎開宅」は横溝正史生誕100年を記念して2002年に開館。地元住民の方々によって大切に管理されていて、入場無料となっています。
こちらが書斎として使用されていた部屋だそうです。金田一耕助はこの部屋で生まれたと言っても過言ではありません。戦後もしばらく居住を続け、江戸川乱歩がこの家を訪ねてきたこともあったそうで、その時の写真も展示されています。
室内には関連資料や著作刊行物の展示のほか、こんな素敵な演出も。ふだんは消灯していて、音声案内が始まると点灯します。
見どころは建物の中だけではなく周辺にも点在しています。これは『八つ墓村』で「タタリじゃあ~!!」と叫ぶキャラとして名高い「濃茶の尼(こいちゃのあま)」の名前の由来だという「濃茶の祠」。このように、周辺エリアには物語に登場する要素のモチーフがてんこ盛りです。そのほか、関連人物の銅像が周辺各所に設置されていますので、ぜひ徒歩や自転車で巡ってみてください。
「倉敷市真備ふるさと歴史館」にも横溝正史のコーナーがあり関連資料が展示されています。現在は入場無料です。
倉本 聰(浅口市金光町)
ドラマ『北の国から』で知られる脚本家・倉本 聰は、父親が岡山県出身だった縁で1945年4月に東京都内から浅口市金光町へ疎開しました。
国道2号線から直線距離にすればそれほど離れていないのですが、お寺と神社と疎開地以外には何もない、本当に人里離れた山の中という感じの場所です。大都会の東京からいきなり引っ越してきた少年にとっては強烈な体験だったそうで、実は『北の国から』はこの時の体験がモチーフになっているとご本人が語っています。まさか、北海道を舞台にした名作ドラマに岡山県が関係していたなんて驚きですね。
疎開地のすぐそばにある「寂光院」は庭園が有名で、秋には見事な紅葉が見られます。ちょうど今が見ごろですよ。
フジコ・ヘミング(総社市日羽・美袋)
2024年4月に92歳で亡くなったピアニスト、フジコ・ヘミング(本名:ゲオルギー・ヘミング・イングリット・フジコ)は母方の祖父が総社市出身だった縁で1945年4月に総社市の日美村(ひよし:日羽と美袋が合併してできた村)へ疎開しました。近くの学校(後年の昭和小学校)に当時としては珍しいグランドピアノがあり、それを借りて毎日練習していたそうです。2022年にはドキュメンタリー映画の企画でこのピアノと77年ぶりに再会し、地元の子供たちの前で演奏が披露されました。
ピアノは今も現地で大切に保管されていて、来春を目標に一般公開へ向けた準備が進んでいるそうです。続報はまた「おか旅」でご紹介させていただきますのでお楽しみに。
現在、新作のドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミング 永遠の音色』が公開中です。
紹介したスポットの場所(地図)
- 勝山町並み保存地区
- 勝山郷土資料館
- 横溝正史疎開宅
- 倉敷市真備ふるさと歴史館
- 寂光院
- JR美袋駅
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