サルナシ農家の民宿「OPEN HOUSE」で体験、自然と共存する暮らし(新庄村)
岡山県北部・豊かな自然が残る新庄村。森と清らかな水に囲まれた山里のさらに奥へ分け入ると、深い自然に溶け込むように佇む農家民宿「OPEN HOUSE」があります。ここは「古民家に泊まる」だけではなく、村の特産品であるサルナシ農家のオーナー夫妻と共に季節の農作業や昔ながらの手仕事など、時期や人の興味に合わせた体験ができる宿です。本記事ではライターが体験と共にその魅力を紹介します。
- ライター
- イマオカ マコト
- 掲載日
- 2026年9月29日
目次
「OPEN HOUSE」が新庄村にある理由
「OPEN HOUSEという宿名には、アルゼンチンの『Mi Casa Es Tu Casa(この家はあなたの家)』マインドを継承する場という想いが込められているんです」と教えてくれたのは、オーナーの臼井崇来人(うすい・たかきーと)さん。大学で両生類の研究やエコツーリズムを学び、世界20ヵ国をバックパッカーで旅して周った後、2010年に新庄村へ移住。村特産で幻の果実とも呼ばれる果実「サルナシ」を農薬や肥料を使わない自然農法で栽培する「ボスケリコ農園」を運営しながら、「新庄村サルナシ栽培研究会」の会長としても普及に情熱を注いでいます。
「農園の屋号・ボスケリコ(Bosquerico)はオーナーの造語で『多様性豊かな森』という意味が込められています。旅の途中で感銘を受けた世界的な『エコツーリズムの発祥地』である中米コスタリカの雲霧林・モンテベルデに似た新庄村の風土に惹かれたんです」と臼井さん。深い霧と多様な生き物が息づく新庄村の山林に可能性を見出し、移住を決意。森を守り、人を惹きつけ、豊かさを森へ還す循環を目指し、自然と人が響き合う暮らしの拠点にしたいとの願いが込められています。
出迎えは植物の奏でる音楽
ニワトリの声を聞きながら「OPEN HOUSE」の玄関を入ると広い土間があり、そこは昭和世代には懐かしく若い世代やお子さんには新鮮な空間。どこからか耳心地のよい澄んだメロディーが。なんと植物が奏でているそうで、葉と土に電極をつなぎ、微弱な生体電気信号を音へと変換した「植物音楽」だそう。「植物も呼吸をし、活動しています。その固有のリズムに耳を澄ませることで、自然との対話を取り戻せるんじゃないかと思うんです」。訪問早々、科学的な探求心と自然への敬意を併せ持つオーナーの言葉に興味津々です!
囲炉裏と五右衛門風呂で心も温まる築100年の空間
「OPEN HOUSE」の始まりは築約100年を迎える広い田舎の家の空き部屋を活用して宿泊者を受け入れたことでした。海外からの旅行者との交流を通じて暮らしや文化を分かち合う場が少しずつ形作られ、現在は日本人の家族連れなどが田舎暮らしを体験する場としても利用されています。決まったプログラムをこなすというより、その季節や訪れる人に合わせて楽しみ方を見つけていく場所です。
土間の先、まず目に入るのは囲炉裏。夜は炭火を囲みながら、春には山野草料理、夏には川魚などを楽しみながらじっくりと語り合う豊かなひとときを過ごせます。 薪で沸かす五右衛門風呂の湯に浸かると体の芯までじんわりと温もりが染み渡ります。広々とした和室でぐっすり眠る、日常から解き放たれた時間。夏もエアコンいらずです。
体験① 幻の果実と呼ばれる「サルナシ」の収穫
訪ねたのはちょうどサルナシの収穫期ということもあり、収穫を体験。 キウイの原種といわれるサルナシはビタミンやミネラルが豊富で古くから重宝されてきた果実で、新庄村は西日本隋一の産地です。収穫できる期間が非常に短く、完熟すると皮が非常に薄く傷みやすく、市場にはなかなか出回らないため「幻の果実」と呼ばれています。
ボスケリコ農園のサルナシ畑は山あいのなだらかな斜面にありました。棚のように左右に交差している枝は大人の背丈よりもやや低い位置にあるので、身を屈めながら緑の天井の下へと潜ります。臼井さんに案内され頭をぶつけつつ見上げると、頭上一面に小さな果実が鈴なりに。「硬めの実を収穫してください。熟した実は本当に繊細で強く引っ張るとそれだけで皮が破れてしまうんです」と臼井さん。教わった通り、手のひらで包み込むように触れ、熟度を確かめながら軸からそっと力を入れて外していきます。傷つきやすいので、獲った実は籠やボウルにそっと滑り込ませます。
ボスケリコ農園のサルナシは、やや小ぶりで野性味ある酸味を持ち近年の研究で高い抗腫瘍効果などが注目される新庄村の在来種と、ジューシーで完熟すると糖度20〜25度に達する東北地方由来、2つの品種をを生育しています。
畑で臼井さんに勧められ、枝についた柔らかく完熟した果実をかじると「甘い!」。やや酸味もありますが、キウイの味わいにも近く「ベビーキウイ」との別名を持つのがよくわかります。
体験② あるがままの形にこだわる「サルナシ酢」づくり
畑から「OPEN HOUSE」に戻り、早速採れたての実で「サルナシ酢(ビネガー)」づくり。収穫したものをそのまま食べるだけでなく、加工して別の形へ変えていく過程を体験できます。
水洗いしたサルナシを一粒ずつ丁寧に拭きます。水分を切ったサルナシをガラス瓶にたっぷり詰めて、無添加の純リンゴ酢と氷砂糖を注ぎ入れます。「好みで蜂蜜を入れるのもいいですよ」と臼井さん。冷暗所で寝かせること2〜3ヶ月、冬を迎える頃にはまろやかでフルーティーな果実酢へと育ちます。すぐにカタチになるものではないからこそ、完成までの時間も含めて楽しめますね。
漬け込んだサルナシの実も捨てずに活用できます。臼井さんのオススメは、実を酢と一緒に粗めに撹拌してご飯と合わせた「サルナシの実入り酢飯」でつくる「サルナシいなり」。爽やかな酸味と実の粒感が絶妙とのことです。また柔らかくなった果実はサトウキビ糖を加えて「寒天寄せ」にして、炭酸で割ると極上ドリンクの出来上がり。ひとつの果実を余すところなく使い切る知恵からは、自然の恵みを大切にする姿勢が伝わってきます。
実際に臼井さんが工夫した自家製ブラウニーをいただきました。サルナシの爽やかな甘さと酸味がアクセントになっていて、後味もスッキリ。幾つかの参考レシピはボスケリコ農園の公式サイトにも掲載されています。
また、時期にもよりますがサルナシは「お茶」「ジャム」「ビール」などの加工品でも販売されています。
その他の体験紹介|里山の手仕事や季節に触れる
「OPEN HOUSE」では、季節や訪れる人の関心に合わせた多彩な体験が用意されています。
●サルナシ(通年)
苗づくり・剪定・挿し木・収穫(9月)・加工など、時期によって様々な体験ができます。
●草木染め(通年)
季節の移ろいとともに野山に自生する草木を採取し、布を染め上げる体験。奥様や地域の仲間が手ほどきをしてくれます。春の若草、夏の青葉、秋の樹皮やサルナシの蔓など、その時々の山の色彩を布に写し取る贅沢な時間です。
●いきもの観察・自然体験(通年)
決まったプログラムではなく、訪れた人の好奇心に合わせて自然と人をつなぐ案内。早朝の森に入って野鳥の声に耳を傾け、初夏には田んぼや水辺でモリアオガエルを観察し、夜には満天の星やホタルを愛でるなど、ありのままの生態系に触れたり、自然保全活動への参加も可能です。
●炭焼き
失われつつある伝統の炭窯を使った貴重な技術を学ぶ体験。(窯に火を入れるスケジュールが合う時期限定)
●薪割り体験
囲炉裏や五右衛門風呂に使う薪を斧で割る、里山のエネルギー循環を体感、自分で割った薪で沸かしたお風呂は格別です。
参加型の取り組み:耕作放棄地を蘇らせる「大豆大学校」
ボスケリコ農園が宿と並行して力を注いでいるのが、2021年から取り組んでいる「大豆大学校」です。
きっかけは、臼井さんと共に農園と「OPEN HOUSE」を運営する妻の幸(みゆき)さんが新庄村に移住して出会った「手前味噌」の文化でした。大豆は味噌や醤油、豆腐などの原料ですが国内自給率はわずか6%程度。かつては畦道などで当たり前に作られていたものの、安価な輸入大豆の普及や手間の多さ、作り手の高齢化によって村内でも耕作放棄地が目立つようになっていました。「新庄村には豊かな土地があり、先人の知恵と技術もある。耕作放棄地をなくし、生き物たちが暮らす環境を守りたい」。その思いから、都市部などの仲間と共に立ち上げたのがこの取り組みです。 会員(塾生)を募り、種まきから草取り、収穫までを共に行い、冬には昔ながらの麹を使って無添加の手前味噌を仕込みます。遠方で頻繁に通えない人でも、一口オーナーとして活動を支え、出来上がった安全安心な味噌を受け取ることで、村の農地保全に間接的に関わることができます。
「安さよりも誰がどこの畑で育てた大豆でどのように作ったのか、素性の分かる味噌を食べる。その手応えに共感してくれる仲間を増やしたい」。穏やかながらも力強い言葉に農園発の温かな循環が、村の外へも着実に広がっています。
「OPEN HOUSE」で得られるもの
サルナシを畑で収穫し、酢作りを体験してみると、あらためて畑の環境や生育の大変さ、加工する人の手間と時間があることに気づかされます。「OPEN HOUSE」で過ごすのは、観光地を短時間で巡るような体験とは少し違います。自然の中で手を動かし、人と話し、地域の暮らしに触れる。そんな時間を通して、自然や環境と共存することの大切さなど、普段の生活では見過ごしているものに目を向けるきっかけになり、子どもたちにはここでの遊びが学びになります。そんな環境と臼井さん夫婦の人柄に触れに出かけてみませんか。
【農家民宿 OPEN HOUSE】
所在地:岡山県真庭郡新庄村3429-3
TEL:090-7976-1157(臼井)
休業日:要問い合わせ
駐車場:あり
※宿泊料金、体験料金はお問い合わせください。
※近隣に公共交通機関がないため、車でのお越しをおすすめしています。
※冬は積雪や道路の凍結があるため冬用タイヤ必須です。
※近隣に民家はなく街灯も少ないため、日中にお越しください。

立ち寄り観光情報(周辺スポット案内)
宿のある新庄村の観光・立ち寄りスポットもご紹介。
地図
- OPEN HOUSE
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