科学が生んだ桜「仁科桜」|日本の原子物理学の父・仁科芳雄博士の故郷・里庄町を巡る
日本の近代科学を代表する物理学者、仁科芳雄(にしな よしお)博士。
「日本の原子物理学の父」と呼ばれ、世界の物理学史にも名を残す人物です。博士の故郷である岡山県里庄町には、生家や記念施設があるほか、博士の研究と深く関わる桜「仁科桜」を見ることもできます。科学と平和の物語をたどりながら、里庄町を巡ってみませんか。
- ライター
- こばん(小林美希)
- 掲載日
- 2026年3月18日
目次
世界の天才と渡り合い、日本の科学の礎を築いた仁科芳雄博士
1890年、里庄町に生まれた仁科芳雄博士は、東京帝国大学工科大学を首席で卒業後、理化学研究所に入所。1921年から約7年間ヨーロッパに留学し、量子力学の父と呼ばれるニールス・ボーア博士のもとで研究を行いました。
当時の研究所にはハイゼンベルクやパウリなど、後に世界的な物理学者となる研究者たちが集まっており、博士もその中心で研究を重ねました。この時に生まれた「クライン=仁科の公式」は、現在も物理学の教科書に載る重要な理論として知られています。
帰国後は理化学研究所で研究を進めるとともに、多くの若い研究者を育てました。仁科研究室からは、後にノーベル賞を受賞する湯川秀樹博士や朝永振一郎博士も生まれています。
「原子物理学の父」である博士はまさに、「日本の科学の育ての親」ともいえる人物なのです。
1945年8月、広島に投下された新型爆弾の調査のため、投下からわずか数日後に広島を訪れた仁科博士は、現地の放射線量を測定しながら被害の状況を調査しました。
その調査から、使用された兵器が原子爆弾であると断定。当時まだ詳しい情報が少なかった中で、爆弾の正体を科学的に明らかにする重要な役割を果たしました。この断定は終戦へと舵を切る根拠の一つともなりました。
戦後、博士は「科学は人々の生活を豊かにするために使われるべきだ」という考えを強く持つようになります。その理念は、理化学研究所で進められた加速器技術の研究にも受け継がれていきました。
そしてその技術から生まれたのが「仁科桜」です。
博士の生涯や研究について学べる「仁科会館」
博士の生涯や研究について学べる場所が「仁科会館」です。
館内には研究資料や功績を紹介する展示のほか、家族や門下生と交わした手紙なども展示されています。研究者としての歩みだけでなく、人柄が伝わる資料も多く、博士の人生をより身近に感じられます。
館内には、パズルや知育玩具などを使って遊びながら考える力を育てるコーナーや図書館も。
子どもでも楽しみながら科学の面白さに触れることができ、親子で訪れるのにもおすすめのスポットです。
「環境は人を創り、人は環境を創る」
入り口には、博士の座右の銘が刻まれています。この言葉を体現するように、「仁科会館」では現在も中高生向けのロボットコンテストや科学セミナーが開催されています。
【仁科会館】
所在地:岡山県浅口郡里庄町大字浜中892-1
TEL:0865-64-4888
開館時間:9:00~17:00
休館日:月曜日、第3日曜日、年末年始
入館料:無料
駐車場:あり
少年期を過ごした風格ある庄屋屋敷「仁科芳雄博士生家」
仁科会館から歩いて約8分の距離に、博士が14歳まで暮らした「仁科芳雄博士生家」があります。
江戸中期から後期の備中南部の庄屋建築の様式の屋敷で、中に入ると広さに驚きました。仁科家は庄屋として代々、浜中村(現・浅口郡里庄町浜中)を治めていたそうで、仁科芳雄博士の祖父・仁科存本(ありもと)は、天保13年(1842年)に摂津麻田藩の飛び領地の代官に任ぜられました。
建物の中でも印象的なのが、はしごで上る2階にある博士の勉強部屋です。
第8子4男として生まれた博士でしたが、勉強好きだったため一部屋与えられていたのだそうです。博士は勉強の合間に、この窓から西の海を眺めていたと伝えられています。今は住宅地やその先には干拓地が広がっていますが、心地よい風が通ります。
当時の海岸線は現在よりも近く、若き日の博士も、この窓から海を眺めながら学問への思いを膨らませていたのかもしれません。
【仁科芳雄博士生家】
所在地:岡山県浅口郡里庄町大字浜中717
開邸日:日曜日(12/28~1/4は休邸)
開邸時間:10:00~16:00
料金:無料
駐車場:あり
貴重な建物ですが、昭和57年の修復から40年以上が経過し、現在は屋根瓦の傷みやシロアリの被害が深刻化しています。
里庄町では「 仁科芳雄博士生家修復プロジェクト」としてクラウドファンディングによる寄附を募っています。

科学が生んだ平和の象徴「仁科桜(にしなざくら)」
「仁科桜」は理化学研究所の加速器「リングサイクロトロン」の技術を用いて開発された、新しい品種の桜です。
サイクロトロンで加速した原子核を桜に照射し、突然変異を起こして作り出します。かつて原子爆弾の調査にも関わった博士が願った「科学の平和利用」。その技術が、こうして美しい花として形になっていることはとても象徴的だと感じました。
個性あふれる4つの品種を紹介します。
【1】仁科乙女
2009年に開発された新種の桜で、ピンク色の一重のかれんな花を咲かせます。春だけでなく条件が合えば秋にも咲く「二度咲き」の品種です。※例年の開花時期は3月中旬。
見学できる場所:仁科会館・仁科芳雄博士生家・つばきの丘運動公園
※写真は2026年3月15日(日)に仁科芳雄博士生家で撮影しました。これから満開になると木全体がピンク色になるそうです。
【2】仁科春果
2012年に開発された新種の桜です。濃いピンク色の八重桜で、花は約4.2cmとおおぶりです。※例年の開花時期は3月下旬。
見学できる場所:つばきの丘運動公園
【3】仁科小町
2012年に開発された新種の桜です。つぼみが完全に開かないぼんぼり咲きの一重桜です。※例年の開花時期は3月下旬。
見学できる場所:仁科会館・スサノオ神社・つばきの丘運動公園
【4】仁科蔵王
2007年に開発された桜。淡い黄色の花が咲き、徐々にピンク色に変化します。※例年の開花時期は4月半ば。
見学できる場所:仁科会館・仁科芳雄博士生家・スサノオ神社・里庄町東公民館・つばきの丘運動公園
すべての仁科桜が見られる「つばきの丘運動公園」
「つばきの丘運動公園」には4種類すべての仁科桜が植樹されています。
憩いのため池エリアに、仁科春果、仁科小町、仁科蔵王を発見しました。仁科乙女は見つけられずでしたが、また探してみようと思います。
里庄町の街並みを一望できる公園で、仁科博士ゆかりの花を観賞してみてはいかがでしょうか。
【つばきの丘運動公園】
所在地:岡山県浅口郡里庄町里見2392
駐車場:あり
紹介したスポットの場所(地図)
- 仁科会館
- 仁科芳雄博士生家
- つばきの丘運動公園
- スサノオ神社
- 里庄町東公民館
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