話題の妖怪“脛擦り”のふるさと。岡山県南西部の不思議スポット4選
2026年4月に全国公開された、高橋一生さん主演の映画『脛擦りの森』はオール岡山ロケ。そして、映画のモチーフである妖怪「脛擦り(すねこすり)」は、岡山県南西部に古くから伝わる伝承がルーツ。監督の渡辺一貴さんは妖怪について、「自然への畏怖、未知のものへの恐怖が産んだ、想像力の結晶」と語っています。そんな、人々の豊かな想像力が生んだ妖怪や不思議なものにまつわる伝承が、岡山県南西部に残っています。今話題の妖怪“脛擦り”のふるさとで、不思議スポットを巡ってみませんか?
- ライター
- こばん(小林美希)
- 掲載日
- 2026年5月7日
1.井領堂(井原市)
映画のモチーフとなった妖怪「脛擦り(すねこすり)」の伝承が残る場所です。
井原鉄道・井原駅から徒歩約5分の場所に「井領(いろん)堂」という小さなお堂が残っており、このあたりにかつて脛擦りが現れたとされています。昔は周囲に田んぼが広がり、夜道は今よりもずっと静かで暗かったはずです。
脛擦りは、夜道を歩く人の股をすり抜けていく妖怪。古くは犬のような姿と言い伝えられてきましたが、現代では猫のようにも見える愛らしい姿でイメージされることが多く、アニメや映画、ゲームでも「可愛くて癒やされる妖怪」として人気です。
もともとは、里庄町出身の博物学者・佐藤清明が著書『現行全国妖怪辞典』の中で、各地に伝わる妖怪のひとつとして記録したのが始まりでした。ささいな記録が、時を越えて映画という形で表現されたと思うと、何気ない街の風景も神秘的に見えてきます。
【井領堂】
所在地:岡山県井原市七日市町
駐車場:なし
2.蛸村峠(笠岡市)
笠岡市と井原市の境にある「蛸村峠(たこむらとうげ)」には、その名の通りタコの伝説が残っています。
昔、峠を越える魚売りの男から逃げ出したタコが地面の隙間に入り込み、地下で暴れたことで地滑りや地震が起きたと言い伝えられているのです。大きくうねるような峠道。車のない時代、この道を越えるのは、今よりずっと心細かったでしょう。 自然の驚異を「生き物の仕業」と考えた、先人たちの豊かな想像力が感じられます。
現在では「逃げたタコは村の守り神」として親しまれており、県道34号沿いの「釆女(うねめ)ファーム」直売所前には、可愛らしい「蛸村峠の駅長」の石像が建っています。帽子をさわれば認知症予防、足をさわれば金職運アップなど、触れる場所によって様々なご利益があると言われるパワースポットです。
卵の直売所や美味しい卵を使ったスイーツショップ、ステーキハウス等があり、ドライブ時の立ち寄りにもおすすめです。
【蛸村峠】
所在地:岡山県笠岡市東大戸4405-1(釆女ファーム直売所)
駐車場:あり
3.血を流した石(浅口市)
浅口市の鴨方町と金光町には、不思議なことに共通する「血を流した石」の伝説が残っています。
鴨方町の「生石のう様(おんじのうさま)」は、岡山藩主・池田光政公が庭石として岡山後楽園へ持ち帰った石にまつわるお話。その石が毎夜「生石へ、いのう(帰ろう)」(岡山弁で「いぬる」は「帰る」の意味)と泣き続けたため、怒った殿様が手打ちにすると、石から血が吹き出したのだとか。殿様も「この石は生きているぞ」と驚き、元の家に戻したといわれています。現在も他郷にいる人が「帰りたい」と願をかけると良いと伝わっています。
また、隣の金光町にある「道満池の坊主岩」は、陰陽師・芦屋道満ゆかりの伝説。岩を火薬で爆破したところ、真黒な血が流れ出したといわれています。
どちらも自然の中に「命」を感じさせる、ミステリアスなスポットです。
【生石のう様】
所在地:浅口市鴨方町六条院中
駐車場:なし
【道満池の坊主岩】
所在地:浅口市金光町占見
駐車場:なし
4.幽鬼の浜(笠岡市・真鍋島)
風情ある漁村の景色が広がる真鍋島には、「幽鬼(ゆうき)の浜」という、名前からして怪しさを感じる場所があります。
江戸時代の古文書によると、このあたりには「小坊主」という妖怪が出没し、人々にいたずらをしていたそうです。不可思議な現象が続くため、人々はここを「幽鬼の浜」と呼び、恐れました。後に「雪の浜」と改名されましたが、今も現地の看板には当時の物語が記されています。
現在は「とこのはな公園」として整備された海辺の公園。美しい景色の中に、異界の気配が混ざる不思議な感覚を味わえます。
【幽鬼の浜(とこのはな公園)】
所在地:岡山県笠岡市真鍋島4730-8
駐車場:なし
【ここも立ち寄って!】里庄町立図書館(里庄町)
里庄町立図書館には、日本で初めての妖怪事典『現行全国妖怪辞典』を著し、「脛擦り」を記録に残した博物学者・佐藤清明(さとう きよあき)の功績が展示されています。民俗学の父・柳田國男よりも早く、1935年に全国の妖怪伝説を一冊にまとめていました。
館内の郷土資料コーナーには「佐藤清明コーナー」が常設されており、著作や岡山の歴史・自然に関する貴重な研究資料が並んでいます。 佐藤清明は植物や動物の調査・研究にも力を注ぎ、鯉ヶ窪湿生植物群落や阿知の藤など、岡山県内の天然記念物の保護にも数多く関わっていました。実は、妖怪研究も方言学の一環として行っていたそうで、『現行全国妖怪辞典』には妖怪の名前だけでなく、その伝承が残る土地の名前も数多く記されています。例えば脛擦りについては「犬の形をして雨の降る晩に通行人の股間をこすって通る。岡山県小田郡」とあります。「脛擦り」を記録に残した佐藤清明について学べるスポットとして、あわせて立ち寄るのもおすすめです。
【里庄町立図書館】
所在地:岡山県浅口郡里庄町大字里見2621
TEL:0865-64-6016
休館日:火曜日・第3日曜日・月末(月末が火曜日の場合は月曜日)
年度末整理日・年末年始、蔵書点検期間(3月)・夏まつり里庄・産業文化祭開催日
開館時間:4月~11月…9:00~19:00(日曜日・祝日は~17:00)、12月~3月…10:00~18:00(日曜日・祝日は9:00~17:00)
駐車場:あり
おわりに
どの妖怪も、元は人間の名付けようのない不安や切実な願いから生まれているのではないでしょうか。暗闇で感じる孤独、偉大な自然への無力感、そして「故郷へ帰りたい」という魂の叫び。そんな人々の感情が豊かな想像力と混ざり合い、形を成したものが妖怪なのだと私は思います。こうした伝承を踏まえながらその土地を訪れると、何気ない風景もかつて誰かが抱いた想いと重なり、特別な景色へと変わるはずです。
ぜひ映画『脛擦りの森』を機に、岡山県南西部に古くから伝わる伝承を巡ってみてください。雨の日の夜道には、くれぐれも足元にご用心を!
紹介したスポットの場所(地図)
- 井領堂
- 蛸村峠
- 生石のう様
- 道満池の坊主岩
- 幽鬼の浜(とこのはな公園)
- 里庄町立図書館
Google Mapの読み込みが1日の上限を超えた場合、正しく表示されない場合がございますので、ご了承ください。


























































